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2017年7月28日(金) 属までも落とすことができなかった!
 三か月前の4月29日に矢板市の八方ヶ原(alt 1,300m)で採取したコケも残り少なくなってきた。その一つ(標本番号 No.1193)を観察してみたが、どうあがいてもDicranaceae (シッポゴケ科) から先にたどり着けなかった。そこで観察覚書には記さず、観察結果と感想を交えた形でこの「たわごと」に書くことにした。

 コケは倒れた腐朽木に密集して生えていた。朔をつけた個体が豊富にあったので属名くらいまでは分かるのではないかと思って採取した。
 茎は長さ2cm前後、途中から1cm前後の黄褐色の朔柄を出して赤褐色の朔をつけていた。乾湿で葉の状態はあまり変わらない。葉は三角形の基部から線形に長く伸びて、先端は針状に尖り、長さ1.8〜3mm、下部から中間部の縁は全縁だが、上部の針状の部分では弱い鋸歯状に見える。中肋は基部では3/8〜1/3の幅を持ち、肩の部分から先では葉幅の大部分を占め、先端にまで達する。葉翼部の細胞は分化せず、葉基部も葉の中間部の細胞もほぼ同様の形で、矩形のものが多く、長さ30〜50μm、幅6〜10μm、薄膜で平滑、膜にくびれなどはない。葉の断面でガイドセルがあり、ガイドセルを挟んで背腹面にはステライドが見られる。
 

(a)
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(b)
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(c)
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(d)
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(e)
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(f)
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(g)
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(h)
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(i)
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(j)
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(k)
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(l)
(l)
(a, b) 植物体、(c) 標本:乾燥時、(d) 標本:湿時、(e) 標本のサイズ、(f) 朔、(g) 葉、(h) 葉の基部、(i) 葉の中央部、(j) 葉の先端、(k) 葉基部の細胞、(l) 葉中間部の細胞

 雌苞葉は基部がスコップの先のような形をしているが、翼部の細胞分化は見られない。葉身細胞は他の葉のそれとほぼ同一。朔柄は上述したように、長さ1cm前後で黄褐色。朔は円筒形でやや傾いて着き、弱い非相称。蓋はほとんど失われていたので、形などはわからない。朔は乾燥していても湿っていても内側に内曲して大きく開くことはない。口環は弱く分化する。朔歯は基部まで披針形ないし針状に二裂し、赤褐色で全面に微細な乳頭があり、先端部はやや大きめの乳頭に覆われる。胞子は球形で、径12〜20μmで、表面は平滑。
 
(m)
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(n)
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(o)
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(p)
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(q)
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(r)
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(s)
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(t)
(t)
(u)
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(v)
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(w)
(w)
(x)
(x)
(m〜p) 葉各部の断面、(q) 雌苞葉、(r) 雌苞葉基部の細胞、(s) 茎の断面、(t) 朔下部と苞葉基部の断面、(u) 朔、(v) 朔歯:上面より、(w) 朔歯、(x) 朔歯の先端

 当初はDitrichum (キンシゴケ属) ではあるまいかと思った、保育社図鑑、平凡社図鑑、Noguchiのいずれにも該当するような種が見当たらない。そこで、Dicranaceae (シッポゴケ科) の属についての記述を手当たり次第に読んでみては、該当する種がないかあたってみたが、結局徒労に終わった。残念ながら、いま現在の同定能力では手に負えないことが判明した。

 今年の4月に採集したコケがまだ6〜7点、6月に採集したものが4〜6点、7月に採集したミズゴケが2点ほど手元に残っているので、これらを一通り観察してしまうまでは、新たなコケ標本の採集は最少限に抑えてなるべく控えてきた。早いところ、これらの処理を済ませてしまいたい。