Top  たわごと:INDEX back


2017年8月17日(木) なんて奇妙な朔歯なんだ!
 今年の4月に奥日光戦場ヶ原で採取したコケを観察していたら、これまで見たこともないような、何とも奇妙な姿の朔歯にであった。コケはどうやらヒムロゴケ科(Pterobryaceae)フクラゴケ属(Eumyurium)のフクラゴケ(=ナワゴケ)(E. sinicum)のように思えるのだが、それにしては朔歯の形状が何とも奇妙だ。フクラゴケではないのかもしれない。
 保育社図鑑でも平凡社図鑑でも、この朔については「外朔歯は線状披針形でパピラがあり,内朔歯の歯突起は破片状で外朔歯に付着する」と、両者とも全く同一の記述になっている。これはおそらくAkira Noguchi "ILLUSTRATED MOSS FLORA OF JAPAN" Part3 p.652-653 に書かれた英語をそのまま日本語の術語に翻訳したからなのだろう。
 Noguchi Part3 のEumyurium sinicumには以下のような記述がみられる:
     Exostome teeth linear-lanceolate, ca. 0.35mm long, not perforate, yellowish, densely papillose; endostome fragmentary, adhering to the exostome teeth. Spores densly papillose, 15-30μm.
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 このサンプルには朔をつけた個体は数個しかなかったが、そのうち二つだけが整った状態の朔歯をつけていた。ほかの朔は崩れていて朔歯の様子はよくわからなかった。
 Noguchiによれば、外朔歯は黄色味を帯びて、穴はないとされる。しかしこの標本の朔歯は、淡い灰白色でまるで綿くずを糸状にしたかのように見え、朔歯の常識からは考えられないほどの厚みがあり、まさに綿の紐のようにさえ見えた。さらに披針形の外朔歯には穴がある(g〜i)。痕跡的とされる内朔歯はどこをみても見つけられなかった(j, k)。また、朔の表面をいろいろ探し回ったが、気孔を見つけることはできなかった(l)。さらに胞子だが、径25μmほどのものと、50〜60μmほどのものの二通りがみられた(k)。
 とりあえず、朔と胞子以外の形質はフクラゴケの記述とほぼ符合するので、観察覚書ではとりあえずナワゴケ(=フクラゴケ)として記録を残しておこうと思っている。