2006年7月23日()
 
理解の誤り−カレエダタケ−
 
 保育社の原色日本新菌類図鑑(II)が出たのは、スイスの菌類図鑑Vol.2(1986年刊)が出た3年後の1989年である。そして巻末の「参考文献」にはスイスの菌類図鑑Vol.2が掲載されている。つまり、保育社の図鑑執筆にあたっては、スイスの図鑑Vol.2が参照されていることになる。このことが頭にあるために、しばし大きな落とし穴に落ちてきた。カレエダタケ属についても、つい最近まで完全に思い違いをしていた。
 保育社の図鑑には、カレエダタケ科について「カレエダタケ属Clavulina1属のみ。従来はホウキタケ科に入れられていたが、担子器の構造が非常に特異なことから最近は独立した科として取り扱われる」とある。そして、カレエダタケ属として取りあげられている3種について、それぞれの解説のすべてに「担子器は2胞子をつけ,二次隔壁ができる」とある(p.92)。一方、ホウキタケ属の担子器についての説明には「二次隔壁はない。」とある(p.94)。
 これを普通に読むと、カレエダタケ属の担子器には必ず二次隔壁が見られる、したがって、担子器に二次隔壁が見られなければ、これはカレエダタケ属のきのこではない、そう解釈することができる。つまり、二次隔壁をもつという形質は絶対的な条件であると思いこんでいた。
 過去に何度もカレエダタケではないかと思えるきのこには出会ってきた。しかし、そのいずれも担子器の二次隔壁を明瞭に捉えることができなかった。なかには二次隔壁をもった個体もあったが、大部分の担子器にはみられなかった。あったとしても、5〜6%程度の比率でしか二次隔壁を確認できなかった。
 カレエダタケなら成菌のほとんどの担子器に二次隔壁が見られるはずだ、これまでそう理解していたので、これをカレエダタケとしてよいかどうかに常に一抹の不安があった。したがって、これらにたいしてカレエダタケ属であるとの判断は避けてきた。
 昨日、ふと、スイスの菌類図鑑のカレエダタケClavulina cristataの項目を開いてみた。なんと、担子器について「with 1-2 sterigmata and basal clamp, sometimes secondarily septate」とある(Vol2. p352)。これによれば、二次隔壁は必ずあるものではなく、時として見られる、その程度のものと理解できる。要するに、多くの担子柄(sterigma)は二つだが、一つのこともあり、担子器には二次隔壁を持つことがある、と理解すればよいのだろう。担子器には必ず二次隔壁がみられるとはどこにも記されていない。
 保育社の図鑑にはスイスの菌類図鑑Vol.2が参考文献として掲載されている。きっと、カレエダタケについてスイスの図鑑にも同じような記述があるだろう。そういった短絡反応をしていたわけである。したがって、スイスの図鑑にすらあたっていなかった。もっと早くにスイスの図鑑にあたっていれば、理解のしかたは違っていたはずである。
 しかし、そこで新たな疑問が生じたとしても、関心を持つ一部のキノコ以外では、それ以前の文献にまで遡ることはしていない。文献を原記載までたどるのは一般にとてもやっかいな作業である。しかもやっと入手した原記載があまりにも短く簡単な文章で、なんら解決の糸口にならないことはあまりにも多い。問題としている形質について、原記載では一行も触れられていないことは日常茶飯事である。だから、誤った理解はカレエダタケに限るまい。

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