2009年3月27日(金)
 
改訂版 羅和辞典
 
 水谷編『改訂版 羅和辞典』が届いた(a)。旧版の田中編『増補改訂 羅和辞典 (1966)』(b)の改訂版だ。旧版は硬い表紙で扱いにくかったが、新版は柔らかな水濡れにも強い表紙となった。項目数も若干増えているが、一つひとつの語彙がすべて見直され、かなり扱いやすくなった。
 興味深いのは付録の文法概要だ。ラテン語の名詞・形容詞は性数格に応じて語尾が変わる。格には主格(nom)、対格(acc)、属格(gen)、与格(dat)、奪格(abl)、呼格(voc)と6つあり、呼格は第一変化の名詞以外は主格と同じなので、普通は5つの格変化が表として示される。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 伝統的に教科書や文法書では、格は nom-acc-gen-dat-abl という順に並べられた(c)。40数年前に受けたラテン語の授業では、dominus-dominum-domini-domino-domino という順番に語尾変化を唱えさせられた。[主対属与奪] の順である。
 いつの頃からか、教科書や文法書における格の配置が変わってきた。現在市販のラテン語入門書や文法書における支配的な配置は、nom-gen-dat-acc-abl、つまり [主属与対奪] となっている。改訂版 羅和辞典でも、ついにこの配列を採用したようだ(d)。
 きのこや菌類で使われる専門用語にはラテン語由来の語彙が多い。また、生物の学名はラテン語で記されている。したがって、ラテン語の初歩的知識があると、きのこに対する楽しみの幅が大きく広がることになる。菌類に特化してラテン語を学ぶには、勝本著「菌学ラテン語と命名法」の右に出る書はない(e)。名著であるがすでに絶版となっている。幸いなことに日本菌学会関東支部からこの名著の「電子版」が発行されている。改訂版 羅和辞典もよい辞書だが、菌類に関する限り「菌学ラテン語と命名法 (電子版)」が現在入手できる最も良い文献だろう。ちなみに、この書における格の配列は、伝統的な nom-acc-gen-dat-abl [主対属与奪] である。

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