2009年6月2日(火)
 
アオキオチバタケ
 
 見かけによらず面白いきのこがたくさんある。アオキオチバタケもその一つだ。5〜7月頃にアオキ Aucuba japonica 樹下をみれば、落ち葉からまず確実に発生している。学名の Marasmius aucubae は、灌木のアオキ属に由来している。針金のように細長くて黒っぽい柄の先に、疎らにヒダをつけた小さな褐色のカサをつける(a)。他に目に付く大形のきのこが出ていれば、そちらに気を取られて振り返られることのないちっぽけなきのこだ。ヒダの数は8〜12枚しかない(b)。
 実体鏡の下でカサとヒダをまとめて切り出した(c〜e)。ヒダの先端をみると、妙な姿のシスチジアがみえる(f)。フロキシンで染めて合焦位置を変えると、どうやら2タイプの縁シスチジアがあるようだ(g)。あらためて、ヒダを一枚スライドグラスに寝かせて薄切りにしてみた(h)。縁を軽く押しつぶすと、一画面に明瞭に2タイプのシスチジアを捕らえることができた(i)。
 無理して小さなきのこのヒダを切り出す必要などさらさらない。ヒダを一枚寝かせて縁をみれば、シスチジアの有無や形はすぐにわかる。ヒダ1枚を取り外してフロキシンで染めた(j)。縁をみると、2タイプの縁シスチジアがあることがわかる(k, l)。水を3%KOHに置き換えて軽く押しつぶした。縁シスチジアの全貌がよく分かる(m)。なぜか胞子紋が落ちなかった。組織をバラしている途中で、ふと胞子らしき塊を見つけた(n)。8〜10μmほどの長さがある。
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
 カサの上表皮が面白い姿をみせてくれる。熱気球の球体部分に無数のイボをつけたような形の細胞が柵状に並んでいる(o)。KOHで組織をばらすと、そのひとつひとつが明瞭に捕らえられる(p)。この細胞は縁シスチジアのひとつのタイプとほぼ同様の形をしている。
 ホウライタケ属やクヌギタケ属の小さなきのこには、カサ表皮に面白い姿をした構造をもっている種があって楽しい。キシメジ科のきのこは、胞子だけみてもすぐに飽きるが、カサ表皮やシスチジアは変化に富んでいるものが多数あって興味深い。

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