2009年11月13日(金)
 
縁シスチジアと縁細胞 (2)
 
 スイスのきのこ図鑑ではArmillaria(ナラタケ属)の解説では、Cystidia(シスチジア)とは書かずに、あえてMarginal cells(縁細胞)という用語を用いている。このMarginal cellsという用語だが、同図鑑の中ではどのように使い分けられているのだろうか。この用語が最も頻繁に出てくるのはAmanita(テングタケ属)のきのこの解説だ。

 Amanitaのきのこでは、ヒダ縁の嚢状組織はたいていMarginal cellsと書いてあるが、一部の種でCheilocystidia(縁シスチジア)が使われ、両者を使い分けているようにみえる。
 たとえば、Sect. Phalloideae(タマゴテングタケ節)のA. citrina(コタマゴテングタケ)やA. virosa(ドクツルタケ)ではCheilocystidiaを用いている。しかし同じ節のA. Phalloides(タマゴテングタケ)やA. porphyria(コテングタケ)ではMarginal cellsが使われている。Sect. Validae(キリンタケ節)のA. rubescens(ガンタケ)でもCheilocystidaが使われている、といったあんばいだ。

 Vol.3のGlossary(用語解説)によれば [marginal cell] とは [cystidiumlike hyphal end on the edge of a lamella, less conspicuous than and as strongly differentiated as a true cystdium (see also cheilocystidium).] とある。ついで [cheilosystidium] をみると [a cystidium one the edge of a gill.] とある。そこで [cystidium] をみると [large, conspicuous, terminal cell of a hypha of peculiar shape, which occurs on the surface of gills, pileus, or stipe.] と記されている。

 どうやら Cheilocystidia と Marginal cells との境界線は多分に主観的で明瞭に区別できるものではなさそうだ。イラスト入り菌類図鑑として著名なM. Ulloa & R. Hanlin「Illustrated Dictionary of MYCOLOGY」(2000)にも、かの有名な「Dictionary of the Fungi」にも Marginal cell という見出しはない。日本菌学会編「菌学用語集」にも Marginal cell という用語はみられない。Marginal cell は菌学の専門用語として広く認識されている用語ではなさそうだ。

 保育社図鑑ではコタマゴテングタケをはじめテングタケ属の解説では「ひだの縁細胞」と記して「縁シスチジア」とは書いていない。その理由として、テングタケ属の解説の項で「多くはひだの縁部に球形,楕円形,洋なし形,こん棒形などのシスチジア様の細胞が存在するが,これらは傘が開くさいにつばの組織の一部が付着したものである。」と述べている(p.115)。


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