長いこと北海道にしか発生しないと思われていたきのこだが、今では栃木県、青森県、長野県などでも発生が確認されている。北海道ではおもにオヒョウに出るというが、青森県、長野県などではハルニレから、栃木県ではハルニレのほか、ヤチダモからも発生が確認されている。今ではハルニレさえあれば、どこにでも発生するのではないかと思っている。
柄にはワイン色の液滴を数多く宿していることが多く、これはピンク色の幼菌から白色の老菌にいたるまで見られる。表面張力がとても大きいのか、ころころと丸いワイン色の液滴は、どしゃ降りの雨の中でも観察することができる。ある日1ccの細い注射器を使って多数の液滴を集めた。ホシアンズタケを見つけては、根気よく柄の液滴を吸い取って回った。100個体以上から集めたにもかかわらず、注射器いっぱいにはならなかった。指先には強烈な匂いがこびりつく。一つひとつの子実体の宿す液滴は量的にはほんのわずかしかない。これをそのままスライドグラスにたらして顕微鏡でのぞくと、たくさんの胞子を観察することができた。
初めてこのきのこに出会ったのは15年ほど前になる。日光でヤチダモの細い倒木から束生していたのだが、そのときはホシアンズタケであるとの認識がなく、トキイロヒラタケだろうくらいにしか思っていなかった。その後もしばしば出会ってはいたが、相変わらず手にとって観察することはなかった。そして、じっくりと観察したり採取したりはしないままに10年ほどが経過していた。
ホシアンズタケと知ったのは1997年だったろうか、たまたま採取してみるとトキイロヒラタケとは明らかに異なるきのこだったので、千葉菌類談話会の採集会の折に持っていった。ここで横山 元氏からホシアンズタケに間違いないと指摘されてびっくりした。当時は、ホシアンズタケといえば北海道にしかないと思っていたので、そんなきのこが日光にあるなんて考えても見なかったからだ。頭から思い込んでいたのですっかり目がくらんでいたのだろう。翌年には青森県からも発生が報告された。定期的にホシアンズタケの観察を続けるようになってみると、日光では5月から10月まで発生することがわかった。つまり雪解けから降霜までのかなり長い期間にわたって生息している。
いつの頃からか、寒暖の差が適度にあってハルニレのあるところならホシアンズタケはどこにでも出るのではないか、と考える様になった。めぼしをつけた地点の一つに長野県の戸隠高原があった。その目で戸隠を歩くと8月にタモギタケの発生を確認した。タモギタケがでるなら必ずホシアンズタケも出るはずだと思って何度か通ったのだが、この年も翌年も出会うことはなかった。戸隠のハルニレ帯でホシアンズタケを見つけたのは2002年の夏だった。戸隠にめぼしをつけてから見つけるまで3年を要したことになる。
戸隠でホシアンズタケの発生を確認したことをインターネット上で公にしたところ、ずっと以前から戸隠でホシアンズタケを見たというメールを何件かいただいた。添付されている写真をみると間違いなくホシアンズタケである。それも1995年とか1997年という。おそらく、他の地域で同じようにずっと以前からホシアンズタケをみている人が何人もいるに違いない。ホシアンズタケそのものもとても印象的なきのこだが、これがきっかけで多くの友人を得たことが貴重な財産となった。(2002.10.11)
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Data | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
2000/07/02 栃木県、日光市にて とても大きな個体 |
1999/07/03 栃木県、日光市にて 表面 |
1999/09/15 栃木県、日光市にて 幼菌 |
1999/09/15 栃木県、日光市にて 裏面 |
2000/06/03 栃木県、日光市にて | 2000/07/02 栃木県、日光市にて |
2001/05/19 栃木県、日光市にて | 2001/05/19 栃木県、日光市にて 裏面 |
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2001/06/16 栃木県、日光市にて | 2001/06/24 栃木県、日光市にて | ||
2001/06/24 栃木県、日光市にて | 2001/06/30 栃木県、日光市にて |