海辺の水際から十数メートルという砂地に発生する。しかも初めて採取したのは寒風吹きすさぶ12月の海辺だった。とても強い臭気を発するグレバを持っている。強風の寒い浜辺では無数の小さなハエが飛び回っているという。グレバの強烈な臭いはこの小さなハエを呼び寄せるためのものだろうか。それにしても厳しい生存条件を選んだものだ。このきのこに関しては、写真や記述がほとんど見られないので、(多少画質が悪いものや菌の状態が芳しくないものも含めて)少し詳細に記録写真を掲げてある。
国内ではかなり珍しい部類のキノコである。過去にやはり千葉県の富津海岸や愛知県の知多半島で採取された記録があるが、これ以外に採取記録は知られていない。はじめて出会ったとき、てっきりアカダマスッポンタケだと思い、親しいきのこ仲間の坂本晴雄氏に「アカダマスッポンタケを見つけた」と携帯から連絡を入れた。帰路千葉県立中央博物館に立ち寄り、吹春俊光氏に「アカダマスッポンタケだと思う」と話して、採取したサンプルの大部分は吹春氏に託した。十数個の個体のうち2つほどを自宅に持ち帰り、卵やら形の整ったものは博物館に置いてきた。これでようやく長年の懸案事項の一つにけりがついたと思って意気揚々と帰宅した。
帰宅してから撮影したデジタルデータを坂本氏に送ったところ、「アカダマスッポンタケではなく、コナガエノアカカゴタケというきのこに姿がよく似ている」との返事が返ってきた。直ちにDr.Dringの "Clathraceae" やO.K.Millerらの "GASTEROMYCETES" などにあたってみると、どうやら "Simblum sphaerocephalum" という菌の図や記述にかなり近い。アカダマスッポンタケとはまるで違う。あわてて千葉県立中央博物館の吹春氏に訂正の電話を入れたが、すでに後の祭りだった。このとき既に「千葉県でアカダマスッポンタケを採取」との報がメーリングリストに流れていた。
Simblum sphaerocephalumが坂本氏言うところのコナガエノアカカゴタケなのだろうか、どうもいまひとつはっきりしない。夜になって京都の吉見昭一先生に電話をすると「それはコナガエノアカカゴタケの可能性が高い、非常に珍しいキノコです。すぐに送ってください。コナガエノアカカゴタケとはSimblum sphaerocephalumに与えた和名です。」とのこと。直ちに標本と写真を送ると、翌々日さっそく吉見先生から折り返し電話があり、コナガエノアカカゴタケに間違いない、とのことだった。沖縄で発見されたキアミズキンタケ(Simblum periphragmoides Klotzsh)などと近縁の珍しいきのこなので、できることなら引き続き観察を続けていってほしいとの要望もあった。吉見先生にはこの後、2002年5月に採取した状態のよいサンプル3個体を再び送付した。これは詳細に観察した後、国立科学博物館に標本として収めるとのことだった。
このきのこに出会ってしまったため(?)、毎月1度は定期的に砂浜に観察にでかける羽目になってしまった。毎回このキノコが発生するシロを最低でも5ヶ所から6ヶ所ほど回るのだが、あるとき出かけていって唖然とした。海岸線の地形が変わってしまっていたのだ。千葉県九十九里浜南部の浜辺に数ヶ所の発生地点があったのだが、いずれも波打ち際から10数メートルという距離にある。防風林からさらに海寄りの砂丘状の場所であるが、この場所が波に洗われて水没してしまっていたのである。その前の月に4,5本が発生していた場所である。これ以降も観察に出かけたときはその周辺を探索することにしているが、水没以降周辺ではコナガエノアカカゴタケの発生は確認していない。今年に入ってからは2月、3月、6月〜9月は発生を確認していない。しかし10月24日には184本も発生していて驚いた。このときは50個以上の卵もみつけた。
しかし、こんな不安定要因を抱えた場所を生息場所に選ぶとはなんという大胆な生き方をするきのこだろうか。(2002.10.25)
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