そろそろ霜が降りる頃になると、マスコミからはきのこの話題などすっかり消え、山も静かになる。一方、海岸の松林にはシモコシ、ショウロなどを求めて多くの人たちがキノコ狩りに入るようになる。山と違って海岸の防風林の中では現在地が分からなくなっても遭難騒ぎになることはない。だからだろうか、海岸でキノコ狩りをしている人には高齢者がとても多い。そして軽装である。長い柄をもった熊手のようなものを携えて、松の根元の落ち葉を端から順に一本一本ていねいに掘り起こして進んでいく。下手な鉄砲も数打ちゃあたる、そういったやり方をしているのだ。松の根本付近をじっと目を凝らして歩き、黄色いものが見えたら近寄って掘り返してみる、そんなやり方じゃ生ぬるいと言われているようでもある。
シモコシ狙いの人たちにとってはマツバハリタケは価値のない雑キノコ、あるいはゴミである。その証でもあるかのように、しばしば転がして放置した状態のものにお目にかかる。掘り起こされ、なおかつ踏んづけられていることも多い。あるいは、そこにキノコが存在していることすら気づかず、松葉や土塊の一部としてひっくり返しただけなのかもしれない。マツバハリタケはみごとな保護色をしている。そのため、目の前にあるマツバハリタケを指さして教えているのに、キョロキョロするばかりで狼狽える人を何度も見ている。目の前に存在するのに保護色にだまされて見えていないのである。
珍しいキノコでもなければ、発生数が少ない希菌でもなんでもない。しかも、大型で存在感のある肉厚のきのこなのに、うずたかく積もった松葉の中ではとても見つけにくい。完全に落ち葉の下に隠れていることも多い。そうでなくても地面すれすれに松葉をたっぷり表面につけて出ているのだから、見慣れないとなかなか見つけるのは難しい。どんなきのこにもファンがいるものだ。このキノコばかりを追い求めている人は結構多いようだ。菌輪をなすシモコシがそっくりそのまま放置され、すぐ脇のマツバハリタケだけが掘り採られている現場に何度かでくわした。シモコシなんか目じゃないよ、とでも言っているかのようだ。さらに小さなマツバハリタケは残してある。きっとこのきのこの美味しさをよく知っているのだろう。
毎年11月の半ば頃になるとマツバハリタケを求めて海辺の防風林に足を運ぶ。一度でダメなら何度か訪れる。よく出る場所というのはほぼ決まっている。菌輪をなして発生するので、一つ見つけると次々にみつかる。傘裏が真っ白で肉がしっかりしているものだけをいくつか持ち帰る。砂と松葉を取り除きそのまま付け焼きにしたり、小さく刻んで炊き込みご飯にするととても美味しい。傘表面にしっかり食い込んだ砂粒や松葉を取り除くのがとても面倒だが、その煩わしさを消し去るほどの上品で豊かな味を楽しませてくれる。マツタケやコウタケなどよりずっと美味しいという人も多い。マツバハリタケ採取のためだけに何度も訪れたのに一つも採取できなかった年が一度だけあった。その年は、結局マツバハリタケを味わうことができなかった。何か大きな落とし物をしたような、妙なひっかかりを残したまま年末を迎えることになった。この翌年11月には例年より多くのマツバハリタケを採取した。やはり年に一度は味わわないと落ち着かない、そんなきのこの一つになっている。(2003.3.5)
月 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
Month | Jan | Feb | Mar | Apr | May | Jun | Jul | Aug | Sep | Oct | Nov | Dec |
Data | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |