何とも粋な和名をもったきのこである。小さなきのこであるが、その姿をみればマユハキタケという名称がいかに的を得た命名であるか誰しも納得してしまうだろう。眉掃きとは、白粉(おしろい)をぬった後に、眉の部分に付いた余分な白粉を払うのに使った小さな筆のことである。竹筒にウサギやキツネの毛を束ねて植え込んで作られていたという。眉毛を引くために使われる眉筆とは別のものである。
不整子嚢菌ユーロチウム目という耳慣れない位置に分類されており、近縁の仲間にはカキノミタケといったやはりきのこらしからぬ姿をしたものがある。このユーロチウム目に属する菌はほとんどがカビ(黴)であり、きのこを作るものは少ない。しかし、きのこをつくるものは非常に特異な姿の子実体を作る。それが魅力的であり、マユハキタケはいつまで見ていても飽きがこない。ケシボウズタケと並んでマユハキタケには特別の思いがある。だからだろうか、きのこ仲間からは「変なキノコばかり追いかける」と揶揄される。
マユハキとかマユハケといった日本語がすでに死語となっているからだろう。マユハキタケといってもなかなかすぐに分かってもらえない。植物の世界でもマユハキあるいはマユハケの名を持ったものがいくつもある。いずれもその花の形が眉掃けを連想させるからであろう。
ヒガンバナ科の多年草マユハケオモト(Haemanthus albiflos)はボール状の白い花を咲かせる。アフリカ南部原産といわれ白い花の先に黄色の葯をつける。名前からオモト(万年青)の一種のようにみえてしまうが、全くの別物である。
マユハケオモトは国内に自生するものではないが、センリョウ科のヒトリシズカ(Chloranthus japonica)はヨシノシズカ(吉野静)とも呼ばれるが、その花の姿からマユハキソウ(眉掃草)ともいわれる。さらにマユハケアザミとかキツネノマユハケなどともいわれるものに、キク科のキツネアザミ(Hemistepta lyrata)がある。こちらはアザミという名がついてはいるが刺はなく、薄紫色からピンク色のアザミによく似た花をつける。これらは日本全国にみられる。
マユハキタケの名を聞くと、美人画に描かれたような女人が白粉を払う姿や、これらの植物の花を連想してしまう。これまで何度も探してはいるが、近場にマユハキタケに出会える場所を知らない。マユハキタケの発生を確認できた場所は、いずれも自宅川口市からはかなり離れている。そのため、かなりの頻度でマユハキタケに会いに遠くまで車を走らせる。往復で300kmほど走ることが多いが、マユハキタケに出会えると妙に安心してしまう。他にきのこが何もなくてもあまり気にならずに戻ってこられる。雪の降る厳寒の時期でも猛暑の夏日でもほぼ通年姿をみせてくれる。ここ何年間かは隔月に一度はマユハキタケに会うことを目的にでかけてきた。そういう「入れ込んだ」きのこというものは他にはあまりない。(2003.3.6)
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