たった一本だけだと、しゃがみ込んでよく見ないかぎり見過ごしてしまいそうな、そんな小さなきのこなのだが、ブナ豊作の翌年など足の踏み場もないほどに発生する。そんな年に下草の少ないブナ林を歩くと淡い黄色の絨毯を敷いたかのようだ。最近でこそ白神山地をはじめ各地で保護されるようになったが、ブナ林そのものがずいぶん減ってしまったために、このきのこを見ることのできる地域も激減した。この小さなきのこを慈しむことはブナを守ることに通じると思っているのだが、北米ではクルミ科の堅果に発生するという。一度クルミ科の樹下にでるウスキブナノミタケをじっくりと観察してみたいものだ。
落ち葉をどけて細長い柄をたどっていくと、その先には必ずブナの実につながっている。前年度の堅果から発生するのだが、一見すると硬い殻斗から発生しているかのように見えるものもある。十分成熟した子実体は傘の色は淡い黄色だが、若い子実体ではやや赤みを帯びた黄色い傘をもったものががかなりある。
きのこの大きさに似合わず意外と大きな胞子をもっている。この胞子が曲者である。図鑑によると、若い胞子はその表面がザラザラで、メルツァー液に反応して青く染まる。つまりアミロイド反応を示す。しかし十分成熟した胞子はもはやメルツァー液では染まらず、表面もツルツルになるとある。しかし、実際に胞子を覗いてみると、両者の中間の反応をしめすものをしばしばみることになる。つまり胞子表面はざらざらなのに非アミロイドないし偽アミロイド、あるいは胞子表面は平滑だがわずかにアミロイド反応を示す、といったものにでくわすことになる。きれいな青色に染まる胞子にお目にかかることは滅多にないだろう。
図鑑類の記述はサワルグミ、あるいはヨーロッパブナ、アメリカブナといった樹種の実から発生したMycena luteopallensの胞子についての記述ではあるまいか。それをそのまま日本のブナやイヌブナの実から発生するウスキブナノミタケの胞子の特徴と同一視してよいものかどうか一考を要するところである。ウスキブナノミタケ=Mycena luteopallens (Pk.) Sacc.tとしてよいのかどうか、ということでもある。現在の時点でサワグルミから発生するものや、ヨーロッパブナなどから発生するものを見たことがないので、これ以上のことはわからない。
このきのこに出会った当初、このことを知らずに、すべての胞子が非アミロイド、つまりメルツァー液には反応しないものだと思っていた。傘の色味の違いの件もあり、アミロイド反応を示すのはウスキブナノミタケによく似た別種のきのこだと思っていた。いずれにせよ、このきのこの胞子を検鏡しようと思ったら、ごく若い菌、成菌、老菌を各々複数採取して持ち帰ることが必要だ。えてしてごく若い菌の採取を忘れがちになるので、注意が必要だ。
同じような仲間の小さく細長い繊細なきのこにコウバイタケとベニカノ アシタケがある。コウバイタケは針葉樹林に、ベニカノアシタケは針葉樹にも広葉樹林にもでる。そしていずれもやや湿った場所の落ち葉や落ち枝からでやすいようだ。またウスキブナノミタケのように一面に発生する姿は見たことがない。この両者の胞子はいずれも非アミロイドであり、ウスキブナノミタケのように若い胞子はアミロイドといった紛らわしさはない。(2002.10.10)
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