マムシにご注意!
きのこ採取の折り最もこわい「危険生物」といえば、何といってもマムシ(北海道ではヒグマかな)でしょう。
落ち葉の堆積した斜面に不用意に手を伸ばしてヒヤっとした経験をした方もいることでしょう。
しばしば、茂った薮、倒木の裏、立木の洞、落ち葉の堆積、石の陰などに潜んでいます。陽当たりの良いところで日向ぼっこをしている姿もよく見かけます。
脅かしたり危害を加えさえしなければ、これほどおとなしい毒蛇は世界中でも珍しいといいます。
毎年何人もがマムシの被害に遭っています。夏から秋のキノコシーズン、どこにでもマムシはいます。
人間の側では脅かそうなどという気は無くとも、マムシとしては非常な脅威にさらされたと感じるときがアブナいといえます。
うかつにマムシに触ってしまったり、踏んずけてしまって噛まれるケースが多いようです。多くの場合、そこにマムシがいることに気付いていなかったゆえの被害といえます。
一般論としては、そっと離れるのが一番のようです。40〜50cmも離れればまず襲ってくることはないようです。過去何度かマムシに噛まれた経験から、次のようなことを心掛けています。
(1) キノコなどに手を伸ばしたり、倒木をひっくり返す前に周囲を確認する
(2) マムシやヤマカガシなどのいそうな場所では、軍手、長靴を着用する
(3) マムシを見かけたら脅さないようし、捕獲しようなどとは考えない
(4) 落葉をかき分けるときは、まず最初にきのこ鎌や棒を使ってから手を使う
それでも、噛まれてしまったら、まず慌てないことが第一です。幼児や老人の場合には生命の危険にさらされるケースもあるかもしれませんが、普通の健康体ならたいてい場合、命に別状はありません。傷口から毒を吸い出せる場合はそれも試みて、なるべく早く医療機関に行きます。その際、走ったりして血液循環を昂進させないことは重要です。また口内炎や虫歯などで口腔に傷のある場合、口で吸い出すのは危険です。
人里離れた山で手首をマムシに噛まれて2日ほど医療機関にかかれなかったことがありました。夕方だったので下山を諦めて、その場でビバークしました。雨の中を激痛と腫れに悩まされて一晩を山中で過ごしました。虫歯治療中のため、毒の吸い出しもできませんでした。
翌朝、下山して休日診療をしている病院をやっと探し当てると、「血清がありません。別の病院に行ってください。救急車を手配します」ということでした。
その病院がまた遠くでした。救急車の出動要請は大袈裟なので断りました。
この時は噛みついたヘビを捕らえて一緒に病院まで持っていきました。「どんなヘビでしたか?」といった質問に対して、説明が面倒だったからです。
結局医療機関では肝心の時に満足できる治療は受けられませんでした。ただ、事実を告げてヘビを渡しただけになりました。
幸い傷口が比較的浅かったせいか、毒はかなり薄まり、症状もほどなくおさまりました。マムシに噛まれたのは初めてではありませんでした。この時は、夜間無理して下山しようとしたりせず、落ち着いて行動したことがかえってよかったようです。
休祭日の山中でマムシに噛まれると、なかなか教科書通りの対処をすることは困難です。口腔に傷があったり、下山までに時間がかかったり、医療機関が休みだったり、血清が常備されていなかったり、「ほんとにマムシでしたか?」と疑われたり、です。
最良の予防策は、マムシと「接近遭遇」をしないよう日常から心掛けることが一番だと思っています。ゆめキノコのついでにマムシ酒でも作ろうなどとは考えないことです。過去何度もマムシを捕らえては焼酎入りの一升瓶に漬けたりしましたが、最近はマムシ酒ともとんとご無沙汰しています。 (1997.10.記)
※この文章は、埼玉きのこ研究会会報 「いっぽん12号」
に掲載したものです。
※写真は (右上) 2000/11/3 千葉県大多喜町、(左下) 2005/9/17 群馬県水上町にて撮影。