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ケシボウズタケ ここ何年間か晩秋から初冬というと、もっぱら海辺を歩き回るのが常だった。海辺といっても防風林の中ではなく、汀線から松林までの間に広がる砂浜ばかりである。長いことケシボウズタケには出会っていなかった。再びケシボウズタケに出会いたいという思いはしだいに強くなり、ここ数年の砂浜行脚となっていた。何年も通っているにもかかわらず、一向にケシボウズタケは姿を現してくれなかった。しかし、副産物はいろいろあって、コナガエノアカカゴタケとかスナヤマチャワンタケなどという異色のきのこを知ることにもなった。さらに、一見不毛な砂浜にも結構いろいろなきのこが発生することも知った。

ケシボウズタケ しかし肝心のケシボウズタケにはなかなか出会えない。千葉県立中央博物館のHさん等に教えていただいた場所にも何度も通ったが、やはりみつからない。2002年12月7日のことだった、菌友の坂本氏と二人で徒労を承知でこれまで何度も通った場所に行ってみた。つい半月前には何もなかった場所に、ウサギの糞のような小さな丸いきのこがいくつも出ているではないか。坂本氏と二人でやったとばかり、祝福の握手をした。

 一目みてこれはてっきり小型のナガエノホコリタケ(ナガエノケシボウズタケ)かアラナミケシボウズタケだろうと思った。柄の表面が平滑なのは雨風でササクレなどが消失してしまったのだろうと考えた。ところが自宅に戻って胞子を顕微鏡で覗いて驚いた。表面に肋骨のように隆起した条線が走っているではないか(写真左)。SEM(走査電子顕微鏡)でみると表面の隆起はさらに明瞭である(写真右)。胞子表面は刺状あるいは疣状をなしているはずだと考えていたからであった。ケシボウズタケその後いろいろ詳細に調べていくと、どうやらTulostoma striatumという種であることがわかってきた。これは日本新産種ということになる。仲間内ではこのケシボウズに対してウネミケシボウズ(畝実ケシボウズ)と呼んでいる。

 一度出会いがあると不思議なもので、次々といろいろなタイプのケシボウズタケに出会うようになった。ケシボウズタケだけを目的に海辺に行っても、かつてのように空振りが少なくなった。時には3日間の海辺探索で何の出会いもないこともあったが、おおむね探した場所ではケシボウズタケに出会える確率が高くなった。その契機となった貴重な出会いをしたきのこが表紙に掲げたケシボウズタケであった。現在では、このウネミケシボウズタケは千葉県内各地と、福島県いわき市などでも見つかっている。