HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.5   採集日:2006/08/13   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ナミガタタチゴケ   学名:Atrichum undulatum]
 
2006年8月13日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今日の日光から若いきれいな朔をつけたコケを持ち帰った(a)。初心者の悲しさ、外見からどの科に属するのかわからない。とりあえずほぐして、朔をつけた株を取りだしてみた(b)。なんとなくスギゴケ科らしいと思えてきた。スギゴケ科にしては葉が柔らかく、横シワがある(c)。
 葉の腹側には、中肋に沿って、そこだけに5〜6本、ヒダの様なものが走っている(d)。中肋は葉先まで伸びていて、葉先には小さな歯もある(e)。胞子体の朔はまだ若いせいか、帽と蓋とが一体化してはずれないので、朔歯の確認は諦めた。帽は長く尖り、表面に毛はない(f)。
 葉身細胞には方形のものが多い(g)。中肋部に走るヒダを確認するために、葉の中程で横断切片を切りだしてみた(h)。中肋上に3〜6細胞からなる薄板が5〜6枚ほどある(i)。薄板の先端細胞は丸味を帯びている。葉身部は一層の細胞からなり、端は厚壁の細胞がみられる(j)。
 中肋の横断面をみると、ガイドセルがよく発達している(k)。茎の横断面も確認してみた(l)。中心束を明瞭にみることができる(l)。
 薄板(lamella)があることからスギゴケ科に間違いない。科の検索表にあたると、帽に毛がないことからタチゴケ属ないしタチゴケモドキ属に落ちる。しかし、葉縁に舷はあるし、薄板は腹面にしかないから、タチゴケ属となる。タチゴケ属の検索表にあたるとタチゴケ Atrichum undulatum に落ちた。変種の可能性はあり得るが、とりあえずタチゴケとしてよさそうだ。
 それにしてもタチゴケ属の属名 Atricum、種小詞 undulatum はまさにその名にピッタリである。'a-' は「〜が無い、〜でない」、'trich-' は「毛」、'undulatus' は「波状の」といった意味である。帽に [毛がない] 属で、葉が [波打っている] コケということになる。

[修正と補足:2007.1.15]
 タチゴケ Atrichum undulatum は、現在はナミガタタチゴケという名称が標準和名として使われているようなので、ここでも和名をナミガタタチゴケと修正する。