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[標本番号:No.12   採集日:2006/09/22   採集地:神奈川県、小田原市]
[和名:オオトラノオゴケ   学名:Thamnobryum subseriatum]
 
2006年9月27日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 9月22日に小田原市の山で、石垣のようなところに群生していたコケを持ち帰った(a, b)。樹状で全体にややツヤがある。一個体を引っこ抜いてみると、一次茎が横に這い、途中から二次茎が立ち上がっている(c)。枝の葉や二次茎の葉は、ほぼ左右相称についている(d)。
 二次茎の葉を一枚取りだした(e)。卵形で中肋が先端近くまで届き、葉の頂端には歯がある(f)。葉の中央部は凹んでいる。葉の翼部は緩く下垂している(g)。葉の先端付近の歯の部分には舷のようなものはない(h)。葉の中程の細胞は菱形から六角形(i)をしている。
 葉の横断切片を切りだしてみた(j)。薄くて小さいので切り出しはかなり難儀した。中肋の背面にはやや尖った部分がある。葉身細胞は一層で、マミラとかパピラなどは見られない(k)。茎の横断面を見ると、外側の組織は小さくて膜の厚い細胞、中心部は大きな細胞からできている(l)。胞子体がついていなかったので、植物体のみから判定しなくてはならない。
 「××目ではない」方式で潰していくと、イヌマゴケ目だけが残った。観察結果から検索していくと、オオトラノオゴケ科に落ちる。ここで科の検索表をたどると、オオトラノオゴケ Thamnobryum subseriatum に落ちた。たぶん、これでよいのだろう。

[修正と補足 2006.11.05]
 保育社「原色日本蘚苔類図鑑」のオオトラノオゴケには、「葉細胞は葉の中央で長い菱形−六角形、長さは13-20μ、幅8−10μ、膜はやや厚い」とある。しかるに、この蘚類の葉身細胞はというと、葉の中央部でも長い菱形などではない。したがって、これをオオトラノオゴケとするのは誤りということになる。しかし、今は何科の何属に落ちるのかわからない。

[修正と補足 2009.02.18]
 先日標本No.587を再検討するにあたり、本標本を久しぶりに再び検鏡して調べてみた。結論としては、オオトラノオゴケとしてよさそうだ。下に補足的な画像を掲げた。
 

 
 
(sa)
(sa)
(sb)
(sb)
(sc)
(sc)
(sd)
(sd)
(se)
(se)
(sf)
(sf)
(sg)
(sg)
(sh)
(sh)
(si)
(si)
(sj)
(sj)
(sk)
(sk)
(sl)
(sl)
 
(sa) 取り出した乾燥標本、(sb) 乾燥標本を水で戻した状態、(sc) 茎の下部、(sd) 茎の中央部、(se) 茎下部〜中央部の葉、(sf) 茎下部の葉、中央部の葉身細胞、(sg) 枝の中程の葉、(sh) 枝葉、(si) 枝葉背面の中肋上部に見られる歯牙、(sj) 枝葉上部の葉身細胞、(sk) 枝葉下部の葉身細胞、(sl) 枝葉基部の葉身細胞

 乾燥標本は、ちょっと強く持つと崩れるほどによく乾いていた(sa)。しかし、水に10分ほど浸すと、生時に近い姿を取り戻した(sb)。一次茎の葉は完全に崩れていたが、二次茎の葉はかなり往事の状態を残していた。下部の葉(sc)、枝分かれをする中部の葉(sd)を中心に葉身細胞を見た(se, sf)。葉身細胞は厚壁で長い楕円形をしている。
 枝先の葉は小さいが、枝基部の葉も中央部の葉と比較すると小さい。ここでは、枝の中程の大きめの葉を検鏡してみた(sg, sh)。中肋背面上部には歯牙が並ぶ(si)。葉身細胞を、上部(sj)、中央下部(sk)、基部(sl)でみた。上部から中央部にかけての葉身細胞は菱形〜長い六角形をしているが、中央部から下部ではイモムシ形の厚壁の細胞が並ぶ(sj〜sl)。

 平凡社図鑑には「(二次茎は)下部から葉を密につけ」とあるが、標本中のすべての個体をチェックしたところ、そういった状態の二次茎をもったものはなかった。標本No.587を検討するときにも、この記述にはかなりの疑問を感じた。
 なお、オオトラノオゴケの配偶体と胞子体については、標本No.587により詳細に記してある。