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[標本番号:No.15   採集日:2006/07/16   採集地:栃木県、日光市]
[和名:クサゴケ   学名:Callicladium haldanianum]
 
2006年10月6日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今日北海道に出発するはずだったのだが、台風のためにフェリーが欠航になってしまった。そこで、ずっと以前日光戦場ヶ原から持ち帰ったコケを調べてみた。生態写真は撮ってなく、手元にあるのは乾燥標本のみである。採取時は、腐朽樹の上を一面に覆っていた(a)。
 水で戻してから(b)、枝葉をみると中肋はほとんど無いか、わずかに短くてはっきりしないものが2本ある(c)。先端は急に細く尖り、歯などはみられない(d)。葉身細胞は厚壁の細胞膜を持ち線形で(e)、翼部分には大きな矩形の細胞が多層に重なっている(f)。
 葉身の中程を横断面で切断すると厚い細胞壁を持った組織が明瞭になった(g)。茎の横断面を見るとあまり分化していない(h)。なお、葉身細胞翼部の細胞を油浸100倍対物レンズでも確認してみた。枝葉の基部には偽毛葉らしきものがわずかに見られた。
 朔の帽は既に失われ、蓋をつけた朔も見あたらなかった。朔歯は二重で外朔歯は16の裂片に分かれている(i)。外朔歯には横縞が走っている(j)。朔歯を湿らすとたちまち口を閉じてしまった。朔を横断面で切ると(k)、赤褐色で一層の厚壁細胞からできていた(l)。
 匍匐性の蘚類で、朔歯が二重、中肋は短いものが基部のあたりにわずかに見られる程度、葉の細胞が線形で先端が全縁、翼部に矩形の大きな細胞がある、等々からシトネゴケ目のナガハシゴケ科、ハイゴケ科あたりだけが候補に残る。
 そこで、ナガハシゴケ科、ハイゴケ科の検索表をそれぞれ辿ると、最も近い候補としてクサゴケが残った。検鏡前にはカガミゴケではないかと思っていたのだが、葉先に歯がない。いくつか疑問の余地はあるが、とりあえず現時点ではクサゴケとして扱っておくことにした。
 このコケは、蘚苔類に首を突っ込んだばかりの7月16日に日光で採取してきたものの、全く手も足も出ないままに、乾燥標本にして保管しておいたものだ。採取時には、いったいどの目に落ちるのかすら皆目見当がつかなかった。