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[標本番号:No.29 採集日:2006/08/20 採集地:栃木県、日光市] [和名:クサゴケ 学名:Callicladium haldanianum] | |||||||||||||||||||
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8月20日に日光戦場ヶ原で、モミ・カラマツ林の林床を広く被う蘚を採取した。赤褐色の目立つ朔をつけていた(a)。その頃はシトネゴケ目の蘚類だろうということくらいしかわからなかったので、とりあえず乾燥状態にして標本だけを作っておいた(b)。採取から三ヶ月近く経過するが、水を張ったシャーレに入れると新鮮な姿に戻った(c)。 コケ自体は土から岩にかけて、一面に艶のあるマットを作っていた。横に這った茎から羽状に多数の枝をだしている。葉は覆瓦状に重なり(d)、卵形で全縁、中央が窪んでいる。中肋はほとんどないか、基部にわずかに二叉している(e, f)。葉の基部には翼があり、頂端は尖っている(g)。中には、微細な歯をもった葉もある。茎葉は枝葉よりも丸みが強い。 葉身細胞は線形で壁がやや厚い(h)。翼の細胞は矩形をなすが、褐色ではない(i)。葉の中間あたりの横断切片をみると、中肋は全くみられない(j)。茎の横断面は厚壁の細胞が表皮を構成し、内部は薄膜の大きな細胞からなっている(k)。 朔の蓋をつけた胞子体は見つからなかった。朔は二列で、外朔歯は16枚の裂片からなる(l)。湿らすと朔歯がたちまち閉じてしまった(m)。朔の壁は厚壁の細胞からなっている(n)。外朔歯には横条が顕著で(o, p)、先端部には乳頭状の突起がある(q)。 これらの結果から、ハイゴケ科、サナダゴケ科、フサゴケ科、ハシボソゴケ科、ツヤゴケ科などが候補にあがる。葉の先端が鎌状に曲がっていない(r)、偽毛葉らしきものがない、葉の翼部の細胞が分化している、中肋が未発達、などから、ツヤゴケ科の確率が高いとも思える。 採取した折りは、疑うことなくタチハイゴケだろうと思っていた。しかし、それにしては、葉を取り去っても茎が赤くない。さらに、葉の翼の部分が褐色を帯びていない。このため、8月末の頃には、お手上げ状態となって、そのまま放置しておいたわけだ。 とりあえず現時点ではタチハイゴケ Pleurozium schreberi として扱っておき、後日多少見る目ができてきた時点で、再び検討してみることにしよう。
[修正と補足:2007.09.19]
[修正と補足:2007.09.21] |
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次に偽毛葉の有無と形態を観察してみた。7〜8ヵ所で確認したが、そのうちの一部を掲載した。茎や枝が分岐する周辺の葉を取り除いて(sh, si)、枝の基部をチェックすると、披針形〜三角形の偽毛葉がみられる。偽毛葉の形態を撮影するには、高性能の実体顕微鏡があるとよいのだが、そういったものは持っていないので、顕微鏡で透過照明の元で撮影した(sj〜sl)。 さて、ハイゴケ科と見当をつけたので、あらためて、属への検索表をたどってみた。次々とたどっていくと、クサゴケ属に落ちた。翼部の細胞と偽毛葉が検索を楽にしてくれた。クサゴケ属は1属1種とある。クサゴケ Callicladium haldanianum に間違いないだろう。 |
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