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[標本番号:No.57   採集日:2006/12/29   採集地:東京都、あきる野市]
[和名:オオアオシノブゴケ   学名:Thuidium subglaucinum]
 
2006年12月30日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 昨日奥多摩南部の養沢川流域の石灰岩地帯を歩いた。そこで、沢の上流の高湿度帯で樹木の枝から60cmほど垂れ下がった細長いコケに出会った(a)。木の枝から長く垂れ下がっているので、これはきっとハイヒモゴケ科の蘚類だろうと思った。
 持ち帰ったものは茎の長さが15〜40cmほどあった(b)。よく見ると2回羽状に枝分かれしている(c)。ハイヒモゴケ科にしては妙だと思ったが、このように枝分かれをしたものは少ないから、すぐに同定できるだろうと感じて観察した。葉は覆瓦状につくが、枝葉よりかなり大きい茎葉がある(d, e)。葉は湿るとやや茎から開き気味になる。
 茎の根元付近の枝は褐色をしていて、その表面が毛のような組織に覆われている(f)。枝の葉も(g)、茎の葉も(h)、とも中肋は葉の先端まで届かない。葉身細胞は不規則な多角形で、先端が2〜4つに分かれた顕著なパピラをもつ(i, j)。これは金平糖をイメージさせる。
 茎の表面を拡大してみると、単細胞の列からなる毛葉が付いている。毛葉はときに2叉分岐し、パピラがある。茎や枝を横断面で切ると毛葉の様子がよく分かる(l)。
 当初ハイヒモゴケ科だとばかり思ったが、顕著な毛葉を持ち、茎葉も枝葉も葉身細胞が不規則な多角形でパピラをもち、羽状に枝分かれをすることから、シノブゴケ科のシノブゴケ属に落ちた。その属のなかでも、枝分かれの特徴、毛葉の密度、パピラの形状を考慮するとアオシノブゴケ Thuidium pristocalyx (≡ T. glaucinum)とするのが妥当と思われる。
 それにしても、まるでハイヒモゴケ科のように長く樹枝から垂れ下がるのは意外だった。たぶんこれは、典型的な姿ではないのだろう。なお、朔をつけたものはなかった。

[修正と補足:2007.12.08]
 2007年10月28日に採取したアオシノブゴケ(標本No.364)と比較してみると、いくつが疑問が出てきた。すなわち、(1) 二次茎の枝が5〜12mmと長い。(2) 毛葉が密に茎を覆っている。(3) 茎葉、枝葉ともにパピラが小さい。つまり、オオアオシノブゴケ T. subglaucinum の可能性が高い。
 図鑑によれば、アオシノブゴケとオオアオシノブゴケとの形態的な差異として、内雌苞葉の上部の縁に歯があり毛がない(アオシノブゴケ)か、内雌苞葉の中部の縁に長毛がある(オオアオシノブゴケ)という。また、発生環境は、アオシノブゴケは山地の木の根本や腐木上に、オオアオシノブゴケは湿地の湿岩上に生えるとされる。
 ただ、本標本(No.57)には朔をつけたものがなく、内雌苞葉の形態を確認することができない。したがって、現時点では、オオアオシノブゴケの可能性が高い、とだけ示唆しておくことにする。

[修正と補足:2008.04.04]
 標本No.394の観察に伴い、再度No.364と本標本を比較検討してみた。その結果、本標本をアオシノブゴケとしておくのは妥当ではなく、オオアオシノブゴケとするのが妥当と考えるようになった。そこで、種名をあらためることにした。