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[標本番号:No.60 採集日:2006/12/25 採集地:東京都、八王子市] [和名:オオサナダゴケモドキ 学名:Plagiothecium euryphyllum] | |||||||||||||
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昨年12月25日に東京八王子市の高尾山で沢沿いの腐木から白緑色の特徴的な姿をしたコケを持ち帰っていた(a, b)。乾燥しても姿はあまり変わらない(c)。あまり枝分かれはなく、茎の長さは2〜5cm、幅は葉を含めて2.5〜3.5mm、葉の長さは1.2〜2.0mmほどある。葉は左右互い違いに茎を抱くように着き、全体に扁平な印象を与える。 一部を顕微鏡の低倍率でみると、葉の基部は背側が大きく茎を被い(d)、腹側の葉の基部からは仮根が束になって出ている(e)。葉は卵状披針形〜楕円形で先端は三角形となり(f)、全縁でやや突出する(g)。中肋は基部で二叉し、葉の中央までは達しない(f)。葉の基部はやや幅広で透明な細胞からなるが(h)、茎に着いた状態のままではちょっとわかりにくい。 葉身細胞は線形で100μm前後の長さがあり、葉の腋には、多数の無性芽が着く。無性芽は、3〜5細胞からなり、線形〜紡錘形をしている(k)。茎の横断面を見ると、表皮細胞は外側が薄膜、内側が比較的厚膜のものが多い(j)。何ヵ所かで茎の横断面を切ってみたが、そのなかに葉の横断面が一部含まれていた。葉の基部あたりだろうが、これを見ると、中肋の部分はステライドのような組織もみられる(l)。なお、葉身細胞にパピラやベルカなどはない。 さてこれは何だろう。科の特徴を見ると、ハシボソゴケ科、フサゴケ科は考慮しないでよさそうだ。サナダゴケ科かハイゴケ科だろうと検討をつけた。ハイゴケ科の検索表をたどると、どうも落ち着きが悪い。そこでサナダゴケ科だろうと検討をつけた。 サナダゴケ科の検索表は茎の横断面での表皮細胞の構造で分かれる(保育社図鑑)。表皮細胞はさほど大きくないが、外面は薄膜なので、「薄膜」を頼りにたどると、サナダゴケ属に落ちる。さらにサナダゴケ属の検索表をたどるとオオサナダゴケモドキが最も近い。 しかし、オオサナダゴケの記載をみると、2つほど気になる記述がある。ひとつは「茎の横断面で表皮細胞は内部の細胞より大きく」という部分。これは、必ずしもあたらない(j)。次に、「葉の基部の下延部は矩形、透明、薄膜の細胞から成り、葉基部の他の細胞から明瞭に区別される」とある。この部分は同図鑑の図(plate 31: 473)とはやや違うように見える。この図をみると、茎の横断面は観察結果と同じように描かれている。平凡社の図鑑の記載もほぼ同様である。 他にもいくつか疑問が残るが、とりあえずオオサナダゴケモドキ Plagiothecium euryphyllum としておくことにする。Moss Flora of Japan Part5にあたると、オオサナダゴケモドキとしても的外れでもなさそうだ。今朝は時間があったので、久しぶりに詳細に書いてしまった。 |
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