HOME | 観察覚書:INDEX | back |
[標本番号:No.69 採集日:2007/01/07 採集地:栃木県、栃木市] [和名:ナガスジハリゴケ 学名:Claopodium prionophyllum] | |||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||
栃木県出流山満願寺奥の院の上で、林道の石灰岩壁にわずかにへばりついた土から出ていたコケを持ち帰った(a)。すぐそばに出ていたリボンゴケなどと比較してもやや小ぶりである。雨の後だったので鮮やかな色をしていたが(b)、乾燥すると細い紐のようになった(c)。 持ち帰ったものを乾燥状態のままほぐしてみた。茎はやや羽状に分枝いている。葉は軽く縮れているが、茎に接したり強く巻縮などはしていない(d)。湿らすとたちまち、もとの鮮やかな色となり葉も広がった(e)。実体鏡で一部を拡大してみると、イボだらけの葉がみえた(f)。 茎の葉も枝の葉もほぼ同様の形をしているが、茎葉がやや大きい。枝葉を一枚取りだしてみた(g)。太くて明瞭な中肋が葉頂まで達し、葉先付近には微細な歯があり、先端が突出している(h)。翼部の細胞も他の葉身細胞と大きくは違わない。葉身細胞は多角形で、中央部には大きな乳頭がひとつか二つある(j)。翼部や葉縁の細胞も同様である。 枝や葉の基部には、毛葉のような構造はみられない(k)。葉の横断切片を切りだしてみた(l, m)。切り出しがなかなかうまく行かず、中肋の部分がどうしても崩れてしまう。中肋に注意して切り出すと、今度は葉身部が崩れる。どうやら、大きなイボが邪魔をしているようだ(n)。 茎を縦断面で切り出してみた(p)。こうやってみると毛葉のような構造があるようにも感じる。茎の表面には乳頭はない(p, r)。手前に向かう枝の横断面がみられるので、この部分を倍率を上げてみると、中肋やら葉の横断面も見える(q)。 さて、この蘚は何だろうか。葉の全面に見られる大きな刺のような乳頭(ベルカorパピラ)が特徴的である。いずれにせよ、はうように広がり、羽状分枝をすること、長い中肋をもつこと、葉身細胞に乳頭があることなどから、シノブゴケ科まではよいだろう。 科の検索表からは、ハリゴケ属に落ちる。ハリゴケ属の検索を素直にたどると、やや迷う選択枝もあるが、ハリゴケ Claopodium aciculum となる。ハリゴケの解説を読むと、ナガスジハリゴケに似ているが小形、とある。ナガスジハリゴケは石灰岩上に生え、葉縁の細胞が葉身細胞とやや異なり割合透明で平滑、とある。どうやら雄株は矮雄になって、雌株の葉の上につくらしい。 あらためて、矮雄がないか、いくつもの枝葉を実体鏡の下で探してみたが、見つからなかった。枝葉の形は細身のものが多いが、葉縁の細胞にも大きく顕著な乳頭があり、およそ平滑とは言い難いので、ハリゴケとして扱う方が妥当だろうと思う。
[修正と補足:2007.1.12. pm7:00]
[修正と補足:2007.5.31] |
|||||||||||||||||||