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[標本番号:No.89 採集日:2007/01/31 採集地:東京都、奥多摩町] [和名:ヒメシノブゴケ 学名:Thuidium cymbifolium] | |||||||||||||||||||
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奥多摩から1月31日に持ち帰ったこけはあと二つある。そのうちのひとつは、林道脇の石垣を覆い尽くすようについていた(a)。イメージとしては、小形のシダのような姿をしている(b)。表面の茎は、規則的に羽状に2回枝分かれしている(c)。太いしっかりした(地下)茎は、長さ20cmに及び、そこから少し細い茎を伸ばし、その先に6〜12mmほどの枝をつけている(d, e)。 コケの底をはう褐色の(地下)茎から、緑色のしっかりした茎をはずした(e)。この茎と一度目に分枝した枝(f)、そこからさらに分枝した小枝(g)、最終的な小さな枝(h)をみた。いずれの茎も、その表面は無数の毛葉に覆われ、葉は先の尖った牙状の乳頭がみられる(h)。 あらためて、茎から葉を外してみた(i)。茎は、広い卵形の基部から急激に細くなり、長く芒となってのび、基部には深い縦シワがある。芒の先まで含めて、長さは1.2〜1.6mm。茶色い(地下)茎に着いた茎葉はさらに大きく、長さ1.5〜2.5mmほどに達するものもある。太くしっかりした中肋があり、中肋背面には牙状の大きな乳頭がある。葉身細胞は丸〜楕円形で、ひとつの細胞にひとつの鋭い牙状の乳頭がある(l)。茎葉の横断面をみると、V字型に折れ曲がった深い縦皺がわかる。また、中肋にガイドセルはなく、ステライドがよく目立つ(m)。 枝葉は非常に小さく、最終的な小枝のものでは長さ0.2〜0.4mm、その上の段階の枝では長さ0.4〜0.6mmの披針形で、中肋は途中で消え、茎葉のような長い芒はない(n)。葉身細胞には牙状の乳頭が、ひとつの細胞にひとつある。葉の横断面をみても、乳頭は明らかである(o)。茎葉は非常に小さいので、横断面の切り出しに難儀し、中肋を含んだ面は得られなかった。 茎表面に無数に着いている毛葉をあらためて確認してみた(p, q)。毛葉にもパピラがある。茎の断面をみると、無数の毛葉に取り囲まれている様子がよくわかる。 大形牙状の乳頭のおかげで、比較的楽にホンシノブゴケ Bryonoguchia molkenboeri にたどりつけた。なお、保育社『原色日本蘚苔類図鑑』p203の本誌の部の解説に「茎葉は (中略)。葉身細胞は平滑」とあるが、これは誤植か何かの間違いだろうか。平凡社の図鑑では「茎葉、枝葉とも葉身細胞の背面中央に1個の大形で牙状のパピラがある」となっている。
[修正と補足:2007.08.09] |
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標本を取り出して(aa)、そのまま茎葉をルーペで確認してみると、いずれの葉先も透明な長い芒となっている(ab, ac)。顕微鏡で観ると、茎葉の葉身細胞全体に乳頭があり、しかも尖端は長い透明尖となっている(ad, ae)。ホンシノブゴケ属では、茎葉の葉身細胞は平滑(下部)で、先端は長い透明尖とはならない。茎葉下部の葉身細胞に乳頭があることを考慮すべきであった。
それにしても、日本語で記された代表的な図鑑のホンシノブゴケについての記述は、混乱を極めているように思う。読めば読むほど混乱する表現がなされている。 |
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