HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.114   採集日:2007/02/22   採集地:埼玉県、川越市]
[和名:ケカガミゴケ   学名:Pylaisiadelpha yokohamae]
 
2007年2月28日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 川越市の雑木林で腐朽木に出ていたコケを持ち帰った。赤褐色の朔を多数つけていた(a, b)。茎は這い、不規則に羽状分枝し、1〜2cmほどの枝を伸ばし、枝の途中から15mmほどの長さの朔柄を出している(c)。乾くと葉は茎に接するようになってシワが寄り、湿ると葉は茎から離れる。茎には毛葉とか偽毛葉などはみられない(d)。
 枝葉は卵状披針形で先端は長く延びて鎌状に曲がる(e)。多くは中央が深く凹む。葉縁の上部には葉がある(f)。中肋は不明瞭。茎葉も枝葉とほぼ同様である。葉身細胞は線形で長さ50〜80μm、幅4〜6μm、翼部では薄膜透明の大型細胞からなる(h)。葉の横断面をみると細胞膜は思いの外薄い(i)。茎や枝の横断面をみると、表皮細胞は薄膜大型で、内部に中心束はみられない(j)。朔歯は内外2列からなり(k)、内朔歯の上部には多数の微突起がみられる(l)。

 いったいどの科に落ちるのか、どうにもわからないので、特徴的なものを整理してみた。茎が這う。不規則に羽状に分枝する。葉の付き方は扁平ではない。毛葉や偽毛葉は無い。葉は卵状披針形で先が鎌形に曲がる。中肋は不明瞭。茎の表皮細胞は大型薄膜。

 該当する科をあたると、ナガハシゴケ科あるいはハイゴケ科が浮上した。ナガハシゴケ科ではナガハシゴケ、カガミゴケなどを検討した。葉先に歯があり、葉の付き方が扁平でないことからナガハシゴケではない。葉が扁平ではないからカガミゴケとは考えにくい。
 ハイゴケ科ではコハイゴケ、ヒメハイゴケ、イトハイゴケなどに順次あたってみた。葉の上半部に歯があるからコハイゴケではない。偽毛葉がないからヒメハイゴケではない。茎の表皮細胞が大型薄膜だからイトハイゴケではない。
 現時点では、どの属になるのかわからない。観察結果に何か見落としがあるか、誤った観察結果を得ているおそれもある。したがって、ハイゴケ科というのもあてにならないわけであるが、とりあえず広義のハイゴケ科という意味合いで、仮にハイゴケ科として扱っておくことにする。

[修正と補足:2007.04.25]
 昨日、千葉県立中央博物館で古木達郎博士にみていただいた。ハイゴケ科はあきらかな間違いであり、これはナガハシゴケ科 Sematophyllaceae で、従来はコモチイトゴケとされてきたものだという。そして、従来コモチイトゴケとされてきたもののうち、千葉県などの低地に発生するものの多くが、コモチイトゴケ Pylaisiadelpha tenuirostris ではなく、ケカガミゴケ P. yokohamae らしい。昨日は、国内のケカガミゴケについての原記載論分の別刷りが見つからず、その詳細については分からなかった。後日また教示していただくことになった。その時点で、また補足することになろう。その結果しだいでは、標本No.149(覚書2007.3.26)もケカガミゴケとなる可能性もある。なお、古木研究室で再検討すると、頻度は非常に低いが無性芽が見つかった。