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[標本番号:No.134 採集日:2007/03/04 採集地:群馬県、神流町] [和名:ナメリチョウチンゴケ 学名:Mnium lycopodioides] | |||||||||||||||||||
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今月4日に長野・群馬・埼玉県境地域を散策して、いくつかのコケを持ち帰ったが、まだ全く袋から取りだしていない蘚類がひとつ残っていた。群馬県神流町の渓流沿いの岩を被っていたコケで、多数の朔をつけていた(a〜d)。今朝はそれを調べてみた。 朔をつけた茎と、朔をつけない茎では印象が違う。若い茎は直立し葉は放射状につけるが(d)、朔をつけない成熟した茎は、扁平気味に葉をつけ這うように伸びる(b, c)。立ち上がった茎は長さ1.5〜2.5cm(e)。這うように伸びる茎では長さ2〜3.5cmで、葉をまばらにつける。 葉は卵状披針形で、長さ1.5〜3mm、葉先は鋭く尖り(f, g)、縁には2〜3列の顕著な舷があり(i)、葉の上部では双生の鋭い歯をつけている(h, i)。葉の縁だけを切り出してみると、双生の歯は矢の羽のような付き方をしている(j)。中肋は葉頂まで達し、背面は平滑である。 葉身細胞は、丸みを帯びた方形〜多角形で、多くは幅15〜25μmだが(i)、中には30μmに及ぶものが一部に見られる(k)。厚角である。葉の横断面を切ってみると(l)、中央に太くしっかりした中肋があり(m)、舷の部分は厚壁をもった1層の細胞からなっている(n)。茎の断面をみると、厚壁の小さな表皮細胞が周囲をとりまき、中央には中心束がみられる(o)。 朔を多数つけていたが、ほとんどすべて未成熟で、朔歯の見られるものはひとつもなかった。朔は尖った薄膜の帽をかぶり、蓋の先は丸みを帯びている(p, q)。朔柄の断面をみると、表皮部分とその直下に厚壁の小さな細胞があり、その内部は薄膜の大きな細胞がみられる(r)。 長い朔柄をもち、葉縁の歯が双生、葉の横断面は単層だから、チョウチンゴケ属にはまちがいなかろう。種の検索表をたどると、ナメリチョウチンゴケとオオヤマチョウチンゴケが候補に残った。オオヤマチョウチンゴケは、中肋が葉頂に届かず、中肋背面上方には鋭い歯が並ぶという。何枚もの葉の中肋背面を見たが、歯をもったものはなかった。背丈がやや大きめで、葉身細胞のサイズも若干大きいが、ナメリチョウチンゴケ Mnium laevinerve としてよかろう。 [補足] 平凡社の図鑑を見ると、朔をつけない茎のことを「不稔の茎」と記してある。さらに、「不稔の茎の葉は離れてついて、2列に見え、葉身細胞もやや大きいことがある」と記されている。
[修正と補足:2009.04.24] |
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