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[標本番号:No.135   採集日:2007/03/10   採集地:東京都、日の出村]
[和名:ヒメフタマタゴケ   学名:Metzgeria decipiens]
 
2007年3月15日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先週の土曜日(3/10)、奥多摩の養沢に沿った林道から、石の上に着いていた苔類を持ち帰った(a, b)。淡い緑色で非常に小さく、葉状体の長さは1〜1.5cm、幅は0.5〜1.2mmで、規則的に二叉状に分枝している。中肋は明瞭で、表皮は2細胞幅である。
 湿らせて葉状体の縁をみると、疎らに毛のような組織がみられる(c, g, j)。乾燥した状態やら(d)、湿らせた状態で(e)、葉状体の表裏をみたが、腹鱗片らしきものはほとんどわからない。顕微鏡で見ても、そられしき組織はみつからない(f, g)。ただ、中肋背面に単一あるいは対になった毛葉状の組織が、規則的にみられる。これが腹鱗片だろうか。
 葉身細胞は多角形で細胞膜は薄く、長径は30〜50μmだが(h)、中には長径70〜80μmに及ぶものも散見される(i)。油体ははっきりわからない。葉の横断面を切り出してみると、複数細胞厚からなる中肋部と、9〜20細胞幅からなる1細胞層の翼部がみとめられる(j)。中肋部の表皮細胞は表裏ともに薄膜で大きな2細胞で、内部には6〜10細胞の小さな細胞がみられる(k, l)。

 規則正しく二叉分枝し、中央に明瞭な中肋が通り、翼部の細胞が1層からなることから、フタマタゴケ科の苔類だろう。さらに葉状体表面には毛がないから、フタマタゴケ属まではよいと思う。種の検索表をたどると、ヤマトフタマタゴケあるいはヒメフタマタゴケが候補にあがる。
 葉状体の縁にごくわずかにしか短毛がないことから、ヤマトフタマタゴケは分が悪い。ただ、ヒメフタマタゴケとするには、「リボン状」の無性芽が見あたらない。ヤマトフタマタゴケの可能性も大きいが、いったんヒメフタマタゴケ Metzgeria decipiens としておこう。