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[標本番号:No.137 採集日:2007/03/10 採集地:山梨県、道志村] [和名:ナガバチジレゴケ 学名:Ptycomitrium linearifolium] | |||||||||||||||||||
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先週の土曜日、山梨県道志村で裏丹沢の沢沿いを歩いた。標高850〜95mの河原で大きな転石一面に何種類かのこけが着いていた(a)。そのうちのひとつ、短い朔柄の先に、朔の上半部まで帽を被い、縮れた葉をもつコケを観察した(b)。 基部で数本に分枝した茎は、高さ3〜4.5cm、葉を密につけ、乾くと巻縮する(c)。湿らすと、葉を90度近く開出して色鮮やかになる(d)。朔柄は3〜6mmで、枝の途中から1〜2本の朔を出す。 葉は卵形の基部から披針形をなし、葉先は細長く、長さ3〜6mm、縁には鋭い歯を持ち、中肋が葉頂にまでたっする(e, f)。葉頂部は針のように細長くはならず、内側に内曲している。葉の縁には舷はなく、3〜5細胞からなる鋭い歯がみられる(g)。 葉身細胞は、先端近くでは丸く、径6〜8μm(g)、中央部では丸みを帯びた矩形で、長さ6〜12μm(h)、いずれも厚壁である。鞘部の葉身細胞は大きな矩形で薄膜、長さ40〜50μm、褐色で透明である(i)。葉身細胞の表面は平滑である。 葉の横断面を見ると、先端部近くでは、葉縁が数細胞の厚みを持ち、中程から基部ちかくでは、縁も1層の細胞からなり、葉の所々に不規則に2細胞の厚みをもつ部分がある(k, n)。横断面からみても細胞膜が厚壁で平滑なことがわかる。 葉の横断面を観察するために、何枚かの葉をまとめて切ってみた。それらのうちから、先端近くの集合を撮影してみた(l)。不規則に厚みを持った葉が随所に見られる。中肋の断面をみると、ステライドがみられ明瞭なガイドセルもある(k〜m)。 朔は楕円形で直立し、朔の上半分ほどを先の尖った帽におおわれる(o)。帽をとると、漏斗を逆さにしたような蓋がでてきた。さらに蓋をとると、赤色の朔歯が現れた(p)。朔歯は縦溝をもち、先端はいくつかに割れている(q)。 帽を被った状態のままで、朔の横断面を切り出してみた(r)。毛のようにみえる帽が縦縞をなしている様子がわかる。朔の壁は、表皮が厚壁で扁平な小形の細胞からなり、その直下には薄膜の大型細胞が並んでいる(j)。胞子は以外と小さくて、径6〜8μmしかない。 茎が立ち、短い朔柄の先に直立した朔をつけ、葉身細胞が厚壁で丸みを帯び、葉には頂に達する一本の中肋をもつことなどから、ギボウシゴケ科には間違いないだろう。属の検索表をたどると、チジレゴケ属に落ちる。さらに種の検索表にあたると、ナガバチジレゴケ Ptycomitrium linearifolium に落ち着いた。なお、保育社の「原色日本蘚苔類図鑑」(1972)や野口「日本産蘚類概説」(1976)では、イシノウエノヒダゴケという和名で掲載されている。しかし、さらに古くに刊行された井上「こけ −その特徴と見分け方−」(1969) 北隆館では、すでにナガハチジレゴケとして掲載されている。この蘚類の和名ばかりではなく、アソシノブゴケとトヤマシノブゴケのように、こけ世界では和名の混乱はかなりの頻度であるようだ。 |
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