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[標本番号:No.163   採集日:2007/03/31   採集地:群馬県、上野村]
[和名:ホウライサワゴケ   学名:Philonotis hastata]
 
2007年4月5日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 上野村の林道脇の沢で柔らかい感じの小さなコケの塊を採取した(a, b)。水流の中に転がる石について、ほとんどいつも水を被る状態である。
 茎は長さ1〜1.5cmで、下部の葉は小さく鈍頭で、中肋は葉先に届かない。姿は角柱を思わせる。上部の葉は卵状楕円形で、中肋が葉頂やや下まで達し、鈍頭〜鋭頭、長さは1mmに及ばない。葉縁には細胞単位の微歯があり、上部で反曲するものが目立つ(c, d)。
 葉身細胞は、矩形〜方形で、上部では小さく(e)、基部ではわずかに大きいが(g)、概ね葉身部の大部分で同じ大きさで、長さ30〜50μm(f)。平面的にみると分かりにくいが、斜光照明にしたり、封入液をやや厚めにすると、細胞の腹面上端に顕著なパピラがあることがわかる(h, i)。
 葉身細胞の横断面をみると、細胞膜が薄いことや、パピラが葉の腹側にあることがわかる(j, k)。中肋は表皮に大型の細胞があり、ガイドセルのようなものや、ステライドは不明瞭である(k)。茎の表皮は薄膜大型の細胞からなり、わずかに中心束がみられる(l)。
 当初これはカマサワゴケだろうと考えた。検鏡結果は図鑑などの記載によく一致する。しかし、葉の感触と形が違う。カマサワゴケの葉は硬い感じとあるが、標本のそれは柔らかい感じ、葉の断面は竜骨状ではなく、そこで折り畳まれることもない。葉身細胞もカマサワゴケにしては、若干大きめである。さらに、葉の基部でも細胞の大きさがあまり変わらない。
 保育社の図鑑を見る限りは、そこから先には進めない。平凡社の図鑑を開くと、ホウライサワゴケ Philonotis hastata というものがあり、観察結果によく一致する。念のために、Illustrated Moss Flora of Japan Part3 の該当種にあたってみた。どうやらホウライサワゴケとしてよさそうだ。