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[標本番号:No.165   採集日:2007/03/31   採集地:群馬県、南牧村]
[和名:アオハイゴケ   学名:Rhynchostegium riparioides]
 
2007年4月7日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 残雪の残る林道を走っていると、氷の張った涸れ沢にコケが着いていた(a, b)。石や落ち葉の下には細やかな水流があった。黄緑色の若い新芽を多数つけた茎が、地下を這う茎から一斉に立ち上がっていた(c)。ルーペでみると、放射状についた丸い葉が水滴をたたえている。
 茎は不規則に分枝し、1〜2.5cmほどの枝をだす(d)。枝の脇から朔を伸ばしたものも多数ついていた(e)。新芽は黄緑色だが、それ以外の葉は暗緑色をしている。茎葉も枝葉もいずれも、円形〜広卵形で(f)、葉頂は鈍頭でわずかに尖り、全周にわたって小さな歯がみられる(g)。
 中肋は葉長の2/3〜3/4あたりで終わり、中肋の表面は平滑である。葉の横断面をみると、基部近くの中肋は幅広く厚みもあり、厚膜の小さな細胞がみられるが(j)、葉の中央部あたりでは、かなり貧弱となる(k)。その先では横断面に中肋はみられない。
 葉身細胞は、葉頂付近では長めの菱形であるが、葉身の大部分ではやや蛇行した線形〜長い菱形で、長さ60〜85μm、幅6〜10μm。葉の基部では、長さ55〜70μm、幅20〜35μmの大きな矩形をなす。葉身部の細胞膜はやや厚い。茎の表皮細胞は、厚壁の小さい(l)。
 茎葉の観察をした結果を撮影してはみたが、泥汚れのせいか、形は崩れ全体が褐色を帯びていた。それに対して、枝葉は汚れも少なく、葉の崩れもほとんどなかった。形や葉身細胞は、茎葉も枝葉もほとんど変わらない。そこで、ここでは枝葉だけを取りあげた。

 典型的なアオハイゴケ Platyhypnidium riparioides らしい。図鑑の [note] に「本種をどの属に入れるか、いろいろな意見がある」とわざわざ記されているように、確かに他のハイゴケ属の蘚類とはかなり違うように感じた。学名もそれを示唆しているかのようだ。
 "platy-" はギリシャ語由来のラテン語で「広い、平らな」の意、"hypnidium" はHypnum(ハイゴケ属)に、「近いもの」というギリシャ語由来の接尾辞 "-idium" を付加して作った種形容語だろうか。この種がカヤゴケ属 Rhynchostegium に置かれているのは、朔の蓋(-stegium)が長い嘴(rhynco-)を持つからなのだろうか。アオハイゴケという和名は、どうにもしっくりこない。

[修正と補足:2010.04.15]
 学名をIwatsuki(2004)にしたがって、Rhynchostegium riparioides とした。