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[標本番号:No.198   採集日:2007/04/29   採集地:栃木県、日光市]
[和名:エゾイトゴケ   学名:Anomodon rugelii]
 
2007年5月15日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月29日に、日光の標高1,200〜1,400m付近で何種類かのコケを採集したが、観察時間がとれずに、まだごく一部しか見ていなかった。昨日、今日と久しぶりに時間がとれたので、今朝はミズナラ巨木の樹幹基部についていたコケを観察した(a, b)。
 樹幹に広がった植物体は褐色の二次茎を出して、長さ2〜4cmほどの枝を伸ばしている。枝葉の形がやや特異な姿をしている(c)。乾燥すると、葉は強く巻縮する(d)。湿らすと直ぐに葉は元に戻った。枝葉は、広卵形の基部に明瞭な区切りをもった舌状の先端部が着いたような姿をしている(e)。葉の形はロケットのイメージだ。葉先は丸頭状で、中肋が葉頂近くまで伸びる。葉の縁は全縁で、舷などは無く、基部が耳状に下延している(e, f)。
 枝からは仮根が出ているが、毛葉のようなものはない(f)。枝葉の葉身細胞は丸みを帯びた方形から円形で、径8〜10μm、背腹に4〜6つの乳頭を持つ(g)。枝葉の横断面をみると、複数の乳頭の先端にはさらに小さな乳頭が着いている。中肋は厚膜の細胞からなる。
 枝葉の基部の中肋付近の細胞は、矩形〜長楕円形で、表面は平滑である(i, j)。葉の基部の両サイドにある耳の部分の細胞は、上記葉身細胞と同じく、方形で小乳頭を持つ。葉の基部中肋付近の横断面を示しておいた(j)。
 茎の先端付近では多数の葉が折り重なっている。この部分の横断面を切り出してみた(k)。葉の両面は乳頭に覆われている。茎の断面は、一次茎、二次茎、枝のいずれも、中心束はなく表皮細胞は厚膜の小さなものだ。

 特異な葉の形と、葉身細胞の乳頭から、シノブゴケ科のキヌイトゴケ属だろうと検討をつけた。属の検索表をみると、エゾイトゴケ Anomodon rugelii に落ちる。図鑑に「この種の重要な特徴は葉の基部が明らかに耳状に下延することであるが、葉を注意してはずすか、葉をとったあとの枝の上を調べぬとわかりにくいことがある。」と書かれている。
 念のために、葉をていねいにはずしてみたが、整った形の耳を一緒にはずすことはできなかった(e)。また、葉をはずしたあとの枝をみると、確かに下延する耳があることは分かるのだが、これを画像として表現するのはかなり難しい。実体鏡を通して何枚か撮影してみたが、いずれも上手く撮影できなかったので、ここでは取りあげなかった。