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[標本番号:No.199   採集日:2007/04/29   採集地:栃木県、日光市]
[和名:コクサゴケ   学名:Dolichomitriopsis diversiformis]
 
2007年5月20日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 河川の転石の上を一面に覆っているコケを持ち帰った(a, b)。柄に直立した朔をつけたものもあった(c)。近くにはオオトラノオゴケに覆われた岩もあったが、件の蘚類は、オオトラノオゴケと比較すると、全体にかなり小さく、ヤワで、朔の付き方も違っていた。
 茎の長さは3〜5cm、先の方で密に分枝して、不規則な樹状となる(d)。乾いても姿はあまり変わらない。若い枝先では、葉の付き方はやや疎だが(e)、それ以外の部分では、枝が見えないほど密に、丸い葉が覆瓦状についている。最初に、一次茎に疎らに着く褐色の小さな葉をみた(f)。楕円形で先端が尖り、中肋が葉の中ほどまで達している。
 二次茎や枝の葉は、長さ1〜2mm、広卵形〜長円形で、中央部が深く凹み(g)、先端はわずかに尖って、小さな歯をもつ(h)。一本の中肋が葉の中部以上に達する。茎葉の葉身細胞は、葉頂部では菱形〜楕円形(h)、基部では方形〜矩形(i)だが、葉身部の大部分では、やや曲がりくねった長楕円形〜線形で、長さ20〜50μm。一次茎の葉身細胞でもほぼ同じだ。
 念のために、葉の基部、中程、上部の三ヵ所で葉の横断面を切り出してみた。画像枚数を少なくするために、3画像を1枚に合成した(k)。枝の横断面をみると、表皮細胞は厚膜の小さな細胞からなり、弱い中心束らしきものもみられる(l)。

 枝の分枝、葉の付き方と形、中肋や葉身細胞の形などから、トラノオゴケ科の蘚類だと思う。葉先が尖ったものが多いので、トラノオゴケ Dolichomitra cymbifolia ではあるまいか。

[修正と補足:2007.05.21]
識者の方から、イヌエボウシゴケ属 Dolichomitriopsis のコクサゴケ D. diversiformis だろうと、とのご指摘をいただいた。文献類をあらためて読み直して、標本を再検討してみると、トラノオゴケとするのは不適当であり、コクサゴケと同定するのが適切である。適切なご指摘と、トラノオゴケに関するご教示に感謝します。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 これにともない、先にアップしなかったいくつかの画像を追加した。採取した標本には朔をつけたものが含まれていた(m)。しかし、残念なことに大部分の朔からは朔歯が失われ(n)、たったひとつだけわずかに外朔歯の一部が残存していた(o)。
 これを用いて朔歯を検鏡しようとしたのだが、たった2本残っていた朔歯を失ってしまった。したがって、検鏡データからは朔歯の基部しかわからない(p, q)。それでも、なんとか外朔歯の表面に小突起があるらしいこと、さらに横条線をもつことなどがわかる。もうひとつ、枝葉の縁付近の葉身細胞の画像も加えた(r)。