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[標本番号:No.208   採集日:2007/04/29   採集地:栃木県、日光市]
[和名:ナスシッポゴケ   学名:Dicranum leiodontum]
 
2007年6月2日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 日光の標高1,400m近辺では、腐木上にシッポゴケの仲間がとてもよく目立つ。肉眼でみたり、ルーペでみても細かな部分は分からない。しかし、何となく違うように思えるものを幾種類か持ち帰っていた。昨日観察したヒメカモジゴケらしきものとは、見た目の感触が何となく違う。
 現地で採集するとき、これも以前観察したものと同じだろうと思って、環境と生態の写真を撮らなかった。カラマツの腐木にマットを作っていたが(a)、茎の背丈は2〜2.5cmで、緑色の部分は1cmもなく、密に葉をつけている(b)。乾燥すると巻縮する。
 葉は長さ5〜6mm、線状披針形で先端部以外は全縁、上部は細長く、溝状に強く巻き込み(d, e)、葉先には歯がある(f)。中肋は葉の基部では1/4〜1/5ほどを占め(g)、上部では1/3ほどの幅となる。中肋背面には小さなパピラがまばらにみられる。
 葉身細胞は方形〜矩形で、長さ10〜20μm、やや厚膜で、葉の上部の細胞にはパピラを持ったものがある(h)。翼部の細胞は大きく、褐色で一層の細胞からなる(i, j)。この翼部に続く部分の細胞は矩形で25〜35μmほどある。
 葉の横断面を何ヶ所かで切り出してみた。各部分をおのおの切り抜いて、4枚の画像を一枚にしてみた(k)。おおざっぱに切り抜いたために、縁が汚らしくなってしまったが、中肋の様子はわかるだろう。葉先の断面は中肋が1/3〜2/5ほど占める。念のために茎の断面も確認した(l)。

 観察結果を検索表と照らし合わせ、はじめはコカモジゴケではないかと考えた。コカモジゴケならば無性芽があるはずだ。そこで、手元の標本を実体鏡の下に置いて、無性芽をさんざん探してみた。しかし、無性芽はどこにもなかった。10分以上探し続けてしまった。
 そこで、再びシッポゴケ属の検索表に戻ると、4種が掲載されている。しかし、葉は折れにくいので、候補は2種に絞られる。カギカモジゴケであるとすれば、葉縁中部が2細胞層で、中肋上部背面には密にパピラがあるという。これは観察結果とは異なる。カギカモジゴケと似ているとされるチャシッポゴケは、高地の腐植土などに群生し、葉の翼部の細胞は2細胞層で、葉身上部の細胞は丸みを帯びているという。これらから、ナスシッポゴケであろうと推測した。