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[標本番号:No.265 採集日:2007/06/16 採集地:埼玉県、秩父市] [和名:サワラゴケ 学名:Neotrichocolea bissetii] | |||||||||||||
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奥秩父大血川でフジノマンネングサの群落のなかに、ちょっと異質なコケが出ていた(a)。シノブゴケ科のコケにカビが生えたような印象だった。岩についたコケはふんわりしたマット状で、白緑色〜褐色を帯びていた。規則的に数回羽状に分枝し、葉の表面には白毛が密生しているように見えた(b, c)。仮根は基部にのみ見られ、全体は岩から斜上に立ち上がっていた。 茎は8〜15cmにも及び、葉はやや重なり合って茎に対して横につき、3〜4裂し葉の縁は長い毛状をしている(d〜g)。腹片はなく、背片とよく似た腹葉がある(i, j)。ルーペで観察するまでは、苔類とは思えなかった。葉身細胞にはトリゴンはほとんどなく、楕円形の油体が1細胞あたり5〜15ほどみられる(h, k)。枝先には、長毛を帯び棍棒状をした、花被あるいはカリプトラのようなものがついている(l)。資料を頂いたのだが、これがカリプトラだ、との指摘はまだできない。 どうやらムクムクゴケ科の苔類らしい。葉にはこれといった明瞭な袋状の構造はみられないから、ムクムクゴケ属となる。日本産は1属1種とされるから、これはムクムクゴケ Trichocolea tomentella ということになる。
[修正と補足:2007.06.28] |
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また、「葉身細胞は矩形」となっているが、あらためて再確認してみると、矩形とは言い難い。さらに、葉の背面は長毛に被われ(m)、枝葉の最腹側の裂片が袋状となっている(n)。ということは、これはムクムクゴケ科ではなく、サワラゴケ科の苔類ということになる。さらに茎頂にある針状の毛に被われた器官(l)は、シーロカウレといわれる構造の可能性が高い。 サワラゴケ科には、イヌムクムクゴケもあるが、これは葉の背面が平滑で、すべての葉の最腹側の裂片がつねに袋状となるとされる。したがって、これはサワラゴケとするのが適切だろう。 |
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