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[標本番号:No.241   採集日:2007/06/02   採集地:栃木県、日光市]
[和名:エダツヤゴケ   学名:Entodon flavescens]
 
2007年6月24日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 栃木県日光で行われた岡山コケの会関東の合宿の折りに採取したコケを観察した。現地ではエダツヤゴケ Entodon flavescens だろうと話していた。以前ツヤゴケ属を調べたときに記載を読んでいたので、その名だけは知っていたが、出会ったのは初めてだった。
 植物体は薄暗い谷筋の転岩を被うようにツヤのあるマットをつくっていた(a, b)。主茎は岩面を横にはい、長さ6〜15cm、整った羽状に多数の枝を出し、枝先は細長く伸び、横に広がっている(c)。若い枝は直立し、深緑色でやや大きめの葉を房状につける。茎や葉は赤みを帯びた部分も多い。乾燥しても、葉はあまり縮れない(d)。
 ルーペで見ると、茎葉と枝葉の大きさが極端に違うことがわかる(e, f)。茎には毛葉などはみられない。茎葉と枝葉を比べてみた(g)。茎葉は、長さ2〜3mm、広卵形の基部から漸尖して全体は二等辺三角形をなす。中肋は非常に弱くかすかに2本あるが、全く見られない葉も多い。茎葉の縁はほぼ全縁。一方、小さな茎葉は、長さ0.8〜1.2mm、卵形で、2本の中肋があり、ほぼ全縁。茎葉も枝葉も葉頂付近には微細な歯がある(h)。
 葉身細胞は、茎葉、枝葉ともに線形で、長さ40〜80μm、幅4〜6μm(i, j)、葉頂では短く、翼部ではやや大きめの方形の細胞が並ぶ(h)。茎や枝の表皮細胞は厚膜で小さく、中心束が見られる(k)。枝葉の横断面をみると、中肋付近だけが複数層の厚みをもっている(l)。

 先入観抜きに観察してみたが、現地での推測どおりエダツヤゴケのようだ。比較的太い茎があり、羽状に分枝した枝先は極端に細くなり、一方で若く短い枝は幅広でやや大きめの葉をつけているので、非常に特徴的な外観を呈している。外観だけで比較的楽に同定できる分かり易いコケのように思った。

[修正と補足:2009.02.20]
 標本No.588で学名を平凡社図鑑などに準拠して E. flavescens としたので、それにあわせてここでも E. rubicundus から E. flavescens と修正した。