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[標本番号:No.235 採集日:2007/05/12 採集地:埼玉県、秩父市] [和名:ミズシダゴケ 学名:Cratoneuron filicinum] | |||||||||||||
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埼玉県秩父市の栃本(旧大滝村)の荒川源流、標高600〜700mの沢の側壁に塊状に黄緑色の蘚が群生していた(a, b)。一次茎が岩をはい、そこから、長さ5〜7cmの二次茎が不規則に立ち上がる(c, d)。茎や枝の表面には小葉状の毛葉が多数ついている(e)。乾燥しても、葉は縮れず、湿時と全体的な姿はほとんど変わらない。 一次茎の葉は褐色から透明で、茎には仮根が無数に着き、葉の基部にも仮根と毛葉が多数ついている。一次形の葉(f 左)、二次茎の葉(f 右)は三角形〜広卵状で、長さ1.8〜2mm、中央部でわずかに凹み、鋭頭で中肋が葉頂近くまで届き、葉縁には微細な歯がある。葉の基部は茎に広く下延している。二次茎の基部にも小葉状の毛葉がある(k)。 枝葉(f 下)は、細い三角形で、長さ1.2〜1.5mm、茎葉に比較してずっと細いが、その他の特徴は、茎葉とほぼ同じ。葉身細胞は、茎葉、枝葉ともに、狭多角形〜線形で、長さ10〜25μm(g)、葉先では菱形〜多角形、翼部では透明な矩形の大きな細胞からなる(h)。 枝葉の横断面をみると、太い中肋が目立つ(i)。茎や枝の横断面では、厚壁の小さな細胞が表皮を構成し、中心束がある(j)。朔柄は茎の途中からでて、長さ3cm前後、茎は斜めにつき、円筒形で、乾燥すると朔歯の基部が細くくびれる(l)。念のために、朔歯みると、外朔歯基部には横条があり、内朔歯の歯突起は中央で裂けている。 いつも湿っており、時には水没する環境に発生して、茎や枝表面には毛葉があり、1本の中肋が長く延びていることなどから、ヤナギゴケ科ではあるまかと思った。属の検索表をたどると、シャグマゴケ属 Cratoneuron に落ちた。シャグマゴケ属のミズシダゴケ Cratoneuron filicinum の記述が、観察結果と比較的近い。典型的ではないが、水辺にでる蘚類は、環境による変異が大きいとされるので、ミズシダゴケとしてよいのではないかと思う。 |
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