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[標本番号:No.248   採集日:2007/06/03   採集地:栃木県、日光市]
[和名:エゾチョウチンゴケ   学名:Trachycystis flagellaris]
 
2007年7月17日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 6月初めに行われた岡モス関東の日光合宿の折りに採取したコケが、まだ数点、未観察状態で残っている。そのうちからチョウチンゴケ科の蘚を観察してみた。日陰の腐った切り株上を一面に被っていた(a)。茎の先端に細長い枝状の無性芽を多数つけ(a, c〜e)、ルーペで見ても葉の表面が非常にざらついている(f)、といった際だった特徴がある。

 茎は立ち上がり、長さ2〜4cm、枝分かれはごくわずかで、先端の無性芽は長さ2〜4mmで雌雄の生殖器官の直下からでる(c, d)。不稔の茎では、先端に無性芽はみられず、葉は茎の左右に偏平につき、匍匐気味にしなだれる(b)。
 葉は卵状披針形で(g)、長さ2mm前後、中程から先端の葉縁には双生の歯があり(h)、数細胞からなる透明な舷がある(i)。中肋は強く、葉頂にまで達する。葉の基部は茎に下延する。
 葉身細胞は丸みを帯びた不規則な多角形で、葉の中央部では長径10〜20μm(j)、基部では長い矩形となり、長さ20〜50μm(l)、頂部では細くなる(k)。いずれの部分も細胞壁はやや厚く、背腹両面にそれぞれ一つの明瞭な乳頭がある(m)。舷の部分では壁がさらに厚く、数細胞層の厚みをもつものもある(m)。

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 葉身細胞の乳頭は、葉の横断面をみると鮮明である(m)。葉の基部以外では中肋断面はほぼ類円形で、厚い細胞壁をもつ(n)。茎の断面をみると、表皮細胞は厚壁で小さい(o)。
 枝状の無性芽の表面には三角形の葉が疎らについている(p〜r)。無性芽を横断面で切ってみると、若い茎を思わせる構造で、葉は中肋様のものが幅の大部分を占める(s)。
 朔は既に蓋を失い、朔歯も欠損していた(t)。しかし、朔歯は二重で、16枚の裂辺からなる(u)。外朔歯は単純な構造だが(x)、内朔歯は上部に穴があり先端は小乳頭に被われる(v, w)。

 冒頭に記した特徴的から、直ちにエゾチョウチンゴケ Trachycystis flagellaris にたどり着いた。無性芽をつけていたことが、容易に種名にたどり着くのに大きく役だった。しかし、無性芽をつけていなくとも、葉身細胞の大きな乳頭、葉縁の舷と双生の歯が同定を容易にしてくれる。