HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.346   採集日:2007/10/10   採集地:岡山県、新見市]
[和名:ヒメクジャクゴケ   学名:Hypopterygium japonicum]
 
2007年10月26日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 米子から岡山に向かう途中、新見市にある羅生門に寄った。途中の鍾乳洞井倉洞付近の沢沿い、標高400mあたりの道路脇で、湿った岩に一見苔類のようにみえるコケがついていた(a, b)。腹葉があり、背側の葉は左右に整然と並んでいる。しかし、よく見ると、側葉にも腹葉にも中肋があり(d, e)、一部のコケからは蘚類特有の朔が伸びている(c)。
 一次茎は褐色で、基物表面を横にはい、途中から二次茎を伸ばす。二次茎は長さ1〜1.5cm、中程から上部に左右に広がるように平面的に多くの枝をだし、植物体は扇状に広がる。枝は長さ5〜10mm、整然と左右に側葉を広げ、腹面には腹葉をつける。
 側葉は、非相称で、長さ1.0〜1.5mm、広卵形で先端は鋭く尖り、中肋は葉長の3/4あたりまでのび、縁には明瞭な舷があり、葉先から中程には小さな歯がある(f〜i)。舷は2〜3細胞層であり(i)、中肋の途中から短い支枝をだしたものもある(h)。
 側葉の葉身細胞は、六角形で、平滑で角張っており、葉身の大部分では長さ15〜25μm(j)、基部付近では長さ25〜30μmに及ぶものもある(k)。側葉の横断面をみると、ステライドはなく、ガイドセルがみられるのみである(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 腹葉は円形で、中肋が先端から長く鋭く突出して、本体部の長さ0.3〜0.5mm、突出部は0.25mmほどの長さがあり、葉縁には側葉と同様の舷があり、突出部から葉の上半には小さな歯がある(m, n)。舷は2細胞層からなっている(o)。
 複葉の葉身細胞は、平滑な六角形で、長さ15〜25μm(o)、基部では25〜30μmに及ぶものもある(p)。葉身細胞の大きさや形は、側葉も腹葉もほぼ同様といえる。腹葉の横断面をみると、ステライドはなくガイドセルだけがみられる(q)。枝の断面に中心束はない(r)。
 朔柄は長さ1.5〜2cmで黄褐色(c)、朔は水平からやや垂れ下がり、長筒状〜長卵形で、k嘴状の蓋、僧帽状の帽をもつ(s, t)。朔歯は内外2列で、それぞれ16枚の歯をもつ(u)。朔歯の上半表面には微細な乳頭が多数ある(v, w)。胞子は小さく、径10〜12μm。

 側葉と腹葉をもつ蘚類ということで、すぐにクジャクゴケ科にたどりつくことができる。属への検索表をたどると、二次茎がウチワ状に分枝し、下部にはまばらに茎葉だけをつけることから、クジャクゴケ属に落ちる。種への検索表から、ヒメクジャクゴケ Hypopterygium japonicum となった。種の解説を読むと、概ね一致する。ヒメクジャクゴケでも、比較的小ぶりな個体のようだ。