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[標本番号:No.351   採集日:2007/10/12   採集地:奈良県、天川村]
[和名:ツガゴケ   学名:Distichophyllum maibarae]
 
2007年10月30日(火)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
 奈良県の大台ヶ原に向かう途中、天川村の渓流沿いの岩壁(標高700m)に、苔類を感じさせるようなコケが広くマット状に広がっていた(a, b)。蘚類特有の朔をつけ、葉には中肋もみられるので、蘚類であることは明瞭だった。植物体は、長さ2〜2.5cmで斜上し、わずかに分枝し、柔らかい葉を、偏平につける(c, d)。茎の途中から朔をつけていた。
 葉は、船型で、密に偏平につき、葉先には小突起があり、全縁で、明瞭な舷がある。中肋は葉長の4/5ほどの長さがある。側に出る葉は、長さ1.2〜1.8mm、やや非相称、背側と腹側から出る葉は、長さ1.0〜1.5mmで、ほぼ相称(e, f)。翼部に分化した細胞はない。
 
 
 
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 葉先の先端部には目立たない小さな歯をもったものもあり、葉の全周にわたって2細胞層の幅の舷がある(g, h)。葉身細胞は、葉の先端部と上部の縁付近では、六角形で、長さ18〜30μm、平滑で薄膜であり(g〜i)、基部付近では葉身細胞は大きく、長さ60μmに及ぶものがある(j)。葉の横断面をみると、中肋は薄膜の小さな細胞が3層をなし(k)、葉身本体部の細胞が非常に薄い膜をもつことが明瞭にわかる(l)。茎の横断面に、中心束はなく、表皮細胞は薄膜(m)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 茎の途中に朔柄をつける。朔柄は8〜12mm(c)、柄の表面は平滑。朔は白色の毛をはやした帽を被る(n)。帽をはずし、蓋をとると、内外の朔歯があることがわかる(o)。朔歯はそれぞれ16枚あり(p)、朔歯の表面には微細なパピラがある。帽の毛は、先端部からは上に、帽の基部からは下に向かって毛状の組織を伸ばす(q, r)。

 偏平に葉をつけ、葉が柔らかく、葉縁に舷があり、大きな葉身細胞をもち、薄膜で、翼部が分化せず、朔の帽に毛がみられることなどから、アブラゴケ科であることは間違いなさそうだ。属への検索表をたどると、中肋が1本で長く、葉縁の舷が発達していることから、ツガゴケ属に落ちる。
 ツガゴケ属 Distichophyllum で種への検索表をたどると、葉縁は平坦で、葉が竜骨状に折れ曲がることはないから、ツガゴケないしヤクシマツガゴケが候補に上る。ヤクシマツガゴケの舷は黄色みを帯び、葉身中部の細胞は長さ30μm以上で、帽に毛がないとされる。したがって、残るはツガゴケ D. maibarae となる。ツガゴケの種の解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。