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[標本番号:No.361   採集日:2007/10/12   採集地:奈良県、上北山村]
[和名:ツボミゴケ属   学名:Jungermannia sp.]
 
2007年11月1日(木)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
 奈良県の大台ヶ原駐車場から延びる遊歩道(標高1,500〜1,550m)で、ツボミゴケ科らしい苔類が薄暗い道脇に大きなマットを作っていた(a)。
 茎は斜上し、長さ3〜4cm、葉を含めた茎幅は3〜4mm、葉を瓦状につけ、茎の腹面からは多数の仮根が束になって流下している(b)。仮根は白色〜淡紫褐色で、腹葉はない。葉は茎に斜めにつき、長さ1.5〜2.5mm、円形で円頭、全縁である。葉身細胞は、六角形〜丸みを帯びた多角形で、長さ30〜80μm、薄膜でトリゴンは大きく、1細胞あたり3〜10の油体をもつ。油体は、円形や楕円形で微粒子の集合状(f〜h)。葉縁の細胞(h)は他より若干小さめか同じくらいの大きさで、葉身細胞はどの部分でも平滑。
 茎の先端をいくつも調べてみたが、花被らしき構造がみつからない(c, d)。茎先を半分に切ってみたりしたが、未成熟な葉があるばかりである(i, j)。すべて雄の株ばかりなのだろうか。それにしては、雄苞葉のようなものも見つけられなかった。

 葉が斜め瓦状につき、葉は全縁・円頭で、腹葉がないことから、ツボミゴケ属 Jungermannia まではよさそうだ。はじめに、保育社の図鑑でツボミゴケ属の検索表をみた。「花被が苞葉とゆ合」するかどうかで大きく二分している。要するにペリギニウムの発達の有無で分けているのだろう。標本には花被らしき構造が見つからない。
 まず、ペリギニウムの発達が悪い、つまり花被が苞葉とゆ合しない分岐をたどってみた。葉が円形でトリゴンは比較的大きいから、ナシガタソロイゴケが候補に残る。つぎに、ペリギニウムがよく発達しているという分岐をたどってみた。仮根は明瞭に1本の束になり、茎の腹面を流下し、葉の付着部から出ていて、油体は各細胞にあることから、候補はかなり絞られる。細胞のトリゴンは大きく、葉身細胞の表面は平滑であるからツボミゴケに落ちる。

 次に平凡社図鑑でツボミゴケ属の種への検索表をたどってみた。この図鑑でもまず最初にペリギニウムの発達の有無で大きく二つに分かれる。先にやったと同じ方法で、最初にペリギニウムの発達が悪いと仮定して、検索表をたどってみた。花被の先がどうなっているか分からないので、これも、両者をそれぞれたどってみた。図鑑に種名だけが掲載されて種の解説がないものは、とりあえず読み飛ばして、種の解説のあるものだけをたどってみた。すると、残る候補は保育社図鑑と同じく、ナシガタソロイゴケとなった。
 次に、ペリギニウムがよく発達するほうの分岐をたどってみた。こちらの枝は一見煩雑であるが、比較的チェックの楽な形質がキーとなっている。観察結果に基づいて分岐を忠実にたどっていくと、ツボミゴケに落ちた。
 そこで、ナシガタソロイゴケとツボミゴケについて、種の解説を読んでみた。当該標本(No.361)は、ナシガタソロイゴケにしては、植物体も葉も大きく、油体の数も多い。しかし、「ブナ帯以上の土上や岩上に生育」は合致する。いっぽう、ツボミゴケの解説を読むと概ね一致するが、「仮根は紫色」と「低地の渓谷沿いの土手に生育」という記述に反する。
 観察不足もあるだろうが、現時点では種名まではたどり着けなかった。また、雄株ばかりであるとすれば、どこかに雄器をつけているはずだろうが、採集標本にはみあたらなかった。