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[標本番号:No.349   採集日:2007/10/12   採集地:奈良県、天川村]
[和名:ハットリチョウチンゴケ   学名:Rhizomnium hattorii]
 
2007年11月10日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 奈良県天川村の御手洗渓谷を歩いているとき(標高680m)、遊歩道脇のジメジメした岩壁についたチョウチンゴケ科の蘚類が目についた(a)。茎は赤く、長さ1〜1.5cm、上部に葉をつけ、下部は褐色の仮根に覆われ、乾燥しても葉はほとんど縮れない(b)。
 葉は、倒卵形〜ウチワ形で、長さ6〜8mm、全縁で、葉縁は褐色の舷があり、葉頂は微突起があり、中肋は葉頂に届かない(c)。葉縁の舷は数列の細胞からなり(e)、葉頂部の舷を構成する細胞は紡錘形になっている(d)。
 葉身細胞は、六角形で長さ80〜120μm、細胞壁は厚い(f)。葉縁や葉基部などでは、葉中央部と比較して、細胞の大きさには大きな差がある。ちなみに、同一の葉で、視野の中に見た最大の細胞は長さ160μm、葉縁の細胞では長さ30〜40μmほどであった。
 葉の横断面をみた(g)。中肋は芯の部分が崩れたものが多く(h)、舷の部分は多層で厚膜の小さな細胞が集まっている(i)。茎の横断面には明瞭な中心束があり(k)、表皮は厚膜の小さな細胞に覆われている(j)。茎の下部を厚く覆う仮根をみたが、無性芽をつけたものはない(l)。

 チョウチンゴケ科の検索表をたどると、茎は直立し、葉縁は全縁、赤みを帯び、舷は多層、などからウチワチョウチンゴケ属にたどりつく。ついで、種への検索表をたどると、ハットリチョウチンゴケに落ちる。種の解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。
 フィールドで見たときには、ケチョウチンゴケではあるまいかと感じていた。たまたま、仮根がまだ茎の上部にまで達していないだけだろうと感じていた。それもあって葉頂部の舷を構成する細胞の形、葉身細胞の大きさ、無性芽の有無などをしつこく確認した。しかし、仮根のどこを探しても無性芽はなかった。