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[標本番号:No.352   採集日:2007/10/12   採集地:奈良県、天川村]
[和名:ヒムロゴケ   学名:Pterobryum arbuscula]
 
2007年11月11日()
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 奈良県天川村の御手洗渓谷の遊歩道(標高720m)で樹幹についていた蘚類を観察した(a)。一次茎は細いひも状で樹幹をはい、二次茎は立ち上がり、羽状に分枝し、密に葉をつける(b)。乾燥しても葉はほとんど縮れないが、枝が上に巻き上がる(c)。
 枝葉は長さ1.8〜2.2mm、卵状披針形で、葉の上半部の縁には鋭い歯があり、中肋が葉長の3/4〜4/5にまで達する(d〜f)。葉身細胞は、芋虫状〜角丸の矩形で、葉身中央部では長さ30μm前後、幅4〜8μm(g)、葉先では20〜30μm、幅8〜10μm(h)。翼部はほとんど分化せず、細胞壁が厚くなっている(i)。葉の横断面をみると、一様に細胞壁は厚く、中肋部にステライドは発達せず、ガイドセルも不明瞭である(j)。枝の横断面(k)でも二次茎の横断面(l)でも、中心束はなく、厚膜の小さな細胞が表皮を構成している。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 枝の途中についた苞葉の間に沈み込むように朔がついていた。苞葉の先は長い芒となって伸びている(n)。朔は広卵形で、尖った小さな帽をかぶり、嘴状のふたがある(o)。採取標本では、成熟した朔は見つからず、蓋をすんなりと取り外せるものはなかった。苞葉は、長卵状披針形で先が長く芒となって伸び、芒の部分を含めた長さは5〜6mm、全縁で中肋が芒の基部まで達している(q)。苞葉の葉身細胞は、長虫状〜線状で、全縁、長さ30〜50μm、幅3〜5μm。

 ヒムロゴケ科であることは間違いないだろう。属への検索表をたどると、ヒムロゴケ属に落ちる。平凡社ずかんによれば、日本産は1属1種とされ、ヒムロゴケだけが掲載されている。解説をよむと、観察結果とほぼ合致する。今回採取した標本には、成熟した朔が見いだせなかったので、残念ながら朔歯の構造を確認することはできなかった。