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[標本番号:No.368   採集日:2007/10/30   採集地:埼玉県、小川町]
[和名:タチゴケ属   学名:Atrichum sp.]
 
2007年11月26日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 10月も終わりの頃、埼玉県小川町にある金勝山の標高210m付近で、ナミガタタチゴケによく似た小さなスギゴケ科の蘚が、半日陰の土の斜面にいくつも群落をなしていた(a, b)。茎は長さ1.5〜2cm、乾くと強く巻縮する(c, d)。朔や雄器をつけた個体はなかった。
 葉は、長さ4〜7mm、披針形で(e)、葉縁には2〜3列からなる舷があり(k)、葉縁上半には、鋭い二重歯がある(h〜j)。葉には横シワがあり(f, g)、シワに沿って背面に歯があり(g)、中肋が葉頂に達し、中肋背面には鋭い歯がある(h)。中肋上に3〜6列の薄板がある(e, f)
 葉身細胞は、葉の中程で中肋近くでは、丸味を帯びた方形〜六角形で、長さ10〜18μm(l)、葉縁付近では、長さ8〜15μm(k)、鞘部付近では矩形で、長さ25〜30μm、幅10〜15μm(m)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 中肋上に並ぶ薄板を腹面上部からみると、方形〜矩形の細胞が並ぶ(n)。この薄板を葉から外して縦断面をみると、上面の細胞は平滑で薄膜(o)、葉の横断面で中肋付近をみると、3〜4列の細胞からなる薄板が見え、上端細胞の表面は丸く平滑である(p)。鞘部の横断面をみると、薄板はない(q)。念のために茎の横断面を確認した(r)。

 タチゴケ属 Atrichum であることは間違いなさそうだ。検索表をたどると、ナミガタタチゴケとヒメタチゴケの両者、そしてナミガタタチゴケの変種とされるムツタチゴケの3者が残る。ナミガタタチゴケにしては、葉の横シワが弱く、植物体もやや小さく、葉身細胞も小さい。残るのはムツタチゴケとヒメタチゴケということになる。
 平凡社図鑑などによると、ナミガタタチゴケとムツタチゴケはともに雌雄同株であるが、ナミガタタチゴケが異苞同株であるのに対して、ムツタチゴケは列立同株あるいは同苞同株であるとされる。染色体数も前者がn=14であるのに対し、後者はn=21だとされる。
 いっぽう、ヒメタチゴケは形態的には、ナミガタタチゴケやムツタチゴケなどと比較すると、薄板を構成する細胞列が高く、葉身細胞は小さいと記述されている。さらに、染色体数はn=7で、いずれとも異なっている。小さな植物体のタチゴケ属では、雄器と染色体数の確認が必要となる。また、三者ともに、「半日陰の土上に群生する」とされ、肉眼的特徴だけでの同定は難しそうだ。
 胞子体、雄器などの確認ができない以上、これ以上の探索は難しい。生殖器をつけた個体や胞子体をつけた個体を持ち帰らないと、同定は非常に困難と思われる。染色体数の確認はこれまでやったことはない。染色体数確認が、さほど面倒でもなく可能であれば、今後やってみようと思う。現時点では、タチゴケ属としておくしかなさそうだ。