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[標本番号:No.380   採集日:2008/02/04   採集地:栃木県、宇都宮市]
[和名:フデゴケ   学名:Campylopus umbellatus]
 
2008年2月13日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 長岡百穴古墳は宇都宮市の宇都宮環状道路の脇にある。これは7世紀の墳墓とされ、凝灰岩に52基の横穴がみられる(a)。2月初めの雪の日、いつものように駐車場に車をおき、ふとみると穴の周りや周囲に、やや硬い感じのコケが多数ついていた(b, c)。
 葉は硬く、乾燥すると色が白味を増すが、縮れたり茎に密着はしない。上部の葉は緑色、下部では暗緑色〜褐色である(d)。茎は立ち上がり、2〜2.5cmの高さで、基部には暗褐色の仮根が密集する(e, f)。葉は、長さ5〜10mm、幅広の披針形で全縁、先端は透明で長い芒となり、表面に鋭い歯がある(g〜i)。中肋は幅広く、基部で葉幅の1/3〜1/2、中程から先では1/2以上、葉先では中肋ばかりとなる(g, h)。葉の背面中肋上には、縦板が12〜20列ほど連っている(j)。
 葉身細胞は、葉の上部から中央部では、菱形〜紡錘形で、長さ10〜20μm、幅6〜8μm、厚壁であり(k)、葉基部では翼部が明瞭な区画をなし、大型矩形の細胞が並ぶ(l)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
 葉の複数ヵ所で横断面を切り出してみた(m〜q)。中肋部には、中央のガイドセルを挟んで腹背両側にステライドがあり、背面には明瞭に縦板状の突起が見られる。中肋背面の突起は、葉基部では低く、葉先に近づくにつれて高くなり、最大4〜5細胞の高さとなって続く。茎の横断面には弱い中心束がみられる(r)。

 全体に硬い感じの葉をもち、乾燥してもほとんど姿を変えず、葉上半の葉身細胞が菱形、中肋背面に薄板があることなどから、すぐにシッポゴケ科 Dicranaceae のツリバリゴケ属 Campylopus にたどりついた。種への検索表を見ると、中肋部の背腹両面にステライドがあることから、すぐにフデゴケ Campylopus umbellatus だろうと判明した。念のために、いくつかの図鑑でフデゴケについての記述を読むと、観察結果と一致する。
 今回採集した標本は、全体に小形であり、典型的な大きさではなさそうだ。また、凝灰岩上に群生していたからなのか、小さな石粒を多量に巻き込んでいて、整った状態の葉が少なかった。このため、葉の横断面切りだしにあたっては、微細な石がカミソリの刃をこぼし、思いの外難儀した。また、朔をつけた個体は一つもなかった。