3月1日千葉県の市原市民の森(alt 80m)で遊歩道脇にシノブゴケ属が密集していた(a, b)。過去に何度か観察しているトヤマシノブゴケ Thuidium kanedae だと思ったので、採取するつもりはなかった。しかし、よく見ると一部に朔をつけた個体がみられた(c)。
トヤマシノブゴケだとすれば、これまで朔の観察はしたことがない。そこで採取し持ち帰っていた。茎や枝表面の毛葉の様子(d)、茎葉と枝葉の形状(e)、茎葉と枝葉の葉身細胞の様子(f)などから、トヤマシノブゴケに間違いなさそうだ。今日は主に朔歯を観察することにした。
朔柄は長さ3〜3.3cm、茎の途中からでる。柄の先の方で曲がり、長卵形で長さ2mm前後の朔を、ほぼ水平につける。採取した標本の朔からは、すでに帽や蓋は失われていた。胞子もほぼ散布され、ほとんど残っていなかった。朔歯の観察にはかえって都合がよい。
朔歯は内外二重で、ともに16枚から構成される。外朔歯(m)は披針形で(n)、下部に横条があり(o)、先の方は微細な乳頭に被われる(p, q)。内朔歯(r)には歯突起と間毛が顕著で(v)、基礎膜(t)は内朔歯全高の1/2〜3/2の高さがある(r)。朔壁には気孔はなく(k)、表皮は葉緑体のない厚壁の細胞から構成されている(l)。
上記に掲げた朔歯の写真(i, j)では、外朔歯と内朔歯が明瞭には捉えられていない。そこで、下記に、外朔歯と内朔歯を分離し、各部分を参考のために掲載した。上段が外朔歯(m〜q)、下段が内朔歯(r〜v)。内朔歯の基礎膜、間毛、歯突起が明瞭にわかる。
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