HOME  観察覚書:INDEX back


[標本番号:No.413   採集日:2008/04/12   採集地:栃木県、佐野市]
[和名:チャボヒシャクゴケ   学名:Scapania stephanii]
 
2008年5月2日(金)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 先月、栃木県佐野市の川に沿った林道を走っていると、水に濡れた岩壁に赤みを帯びたコケが一面についていた(a)。コケの先端付近が強い赤みを帯びていた(b)。茎は長さ2〜3cm、斜上〜直上し、分枝は少ない。葉は背片が腹片より小さく、接在する。背側(c, d)と腹側(e, f)からみた姿、赤みを帯びた先端付近(g, h)の写真を掲げた。
 背片は腹片の1/2弱の長さ、長方形〜広卵形、鈍頭で、縁には小さな歯があり、基部はほとんど流下しない。腹片は卵形〜倒卵形、やや鋭頭〜鈍頭、長さ0.6〜1.0mm、縁は歯で覆われ、基部は弱く流下する。キールは明瞭で、背片の1/3ほど(d, f, i, j)。
 葉身細胞は円形〜丸味を帯びた方形で、長さ8〜13μm、やや厚膜で平滑、トリゴンは小さい。腹片の歯は三角形で、3〜8細胞で構成される(l)。無性芽ははっきりしない。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 朔をつけた個体がいくつかあった(m)。朔柄は長さ3〜4mm、朔は長さ0.6〜1mm、花被は背腹がわから押されたように扁平な長方形で、口部は広く、切形で細かな歯がある(m〜o)。雄花はよくわからなかった。
 実体鏡の下で見ていると、朔が4裂片に破裂して胞子や弾糸をまき散らした(p, q)。とりあえず、朔壁を見るために、朔を横断面で切り出してみた(r)。内側は細かい細胞が2〜3層をなし、外側は厚壁の大形細胞からなる(r)。内側面(s)と外側面(t)をそれぞれの側から眺めた写真を掲げた。朔柄の表皮細胞は、タケを密集して並べたようだ(u, v)。念のために、螺旋状の弾糸と胞子を撮影した(w, x)。胞子は球形で、径10〜14μmほどだ。

 背片が腹片より著しく小さく、腹葉のないことから、ヒシャクゴケ科 Scapaniaceae のタイ類のようだ。葉の裂片が類卵形で、花被は背腹からおされたように扁平であることから、ヒシャクゴケ属 Scapania だろう。葉にはキールがあり、葉身細胞は厚壁で、トリゴンがあり、葉腋に鹿角状の付属物がなく、葉はほぼ平滑であることから、チャボヒシャクゴケ S. stephanii と判断した。図鑑類で種の解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。