HOME | 観察覚書:INDEX | back |
[標本番号:No.432 採集日:2008/05/03 採集地:栃木県、那須塩原市] [和名:イボヤマトイタチゴケ 学名:Leucodon atrovirens] | |||||||||||||
|
|||||||||||||
5月3日に栃木県那須塩原市で採取したコケを観察した。沢沿いの遊歩道に沿った標高900mあたり、半日陰の樹幹についていた(a〜c)。一次茎は細く樹幹をはい、二次茎が立ち上がり、密に葉をつけている。ゴワゴワとした硬い感じを受ける。 茎の幅は葉を含めて、乾燥時2mm前後だが、湿ると葉を展開させ4〜5mmとなる。二次茎の長さは、8〜10cmにも達する。葉は湿ると広く展開するが、乾燥しても縮れることはなく、茎に密着する。葉は卵状楕円形で先が尖り、長さ2.8〜3.2mm、全縁で中肋はなく、湿ると小船のような凹状となり、乾燥すると縦シワが顕著となる(e〜i)。 葉身細胞は、葉頂付近では菱形で長さ18〜25μm(j)、葉身の大半では線形で長さ30〜45μm(k)、いずれも厚壁で、異形の細胞からなる翼部を持つ。翼部の細胞は、方形で長さ5〜10μm、厚壁(l)。葉の基部をみると、翼部から中央部にわたって、3つのタイプの葉身細胞が連なる(m)。最も内側の線形の細胞は長く、50〜60μmの長さがある。 |
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
葉の横断面を切り出してみた(n)。葉の中央部では細胞は小さいが(o)、翼部ではかなり幅広で大きく(p)、いずれも厚壁をもつ。茎の横断面に中心束はなく、厚壁の小さな細胞が表皮を構成する(q)。雌苞葉は、嘴をつけた盾のような形をしている(r〜t)。雌苞葉の葉身細胞は線形で、長さ40〜80μm(u)、基部では方形〜長矩形となり、幅10μmを超える(v)。採取した標本では、すべての朔に、もはや帽や蓋はなく、胞子もすっかり放出した後だった(w)。朔柄は葉腋から出て、長さ10〜12mm、朔は卵形で、直立し相称(w)。朔歯は16枚で、白色を帯びている(x)。
|
|||||||||||||
|
|
||||||||||||
朔柄の表面には乳頭が多数みられる(y)。朔柄の横断面を切ってみた(z)。朔には、口環がよく発達し、外朔歯の先は二つに割れ、乳頭に覆われる(aa, ab)。内朔歯は明瞭には捉えられない。何となく内朔歯があるようには見えるが、「歯」の部分はない。朔に気孔はなく、横断面をみると(ac)、朔表皮は厚膜の細胞からなり(ad)、内側は薄膜で大きな細胞からなる。 イタチゴケ科 Leucodontaceae の蘚類に間違いなさそうだ。二次茎の葉に中肋がなく、翼部の細胞が、葉身部と異なった形をしているから、イタチゴケ属 Leucodon の蘚類だろう。二次茎に中心束がなく、翼部は葉長の1/3以下で、朔柄に明瞭な乳頭があることなどから、検索表をたどると、イボヤマトイタチゴケ Leucodon atrovirens に落ちる。帽や朔の蓋、胞子の観察はできなかったが、いずれこれらを観察するチャンスもあるだろう。 |
|||||||||||||