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[標本番号:No.443   採集日:2008/06/02   採集地:三重県、亀山市]
[和名:ホウライスギゴケ   学名:Pogonatum cirratum ssp. fuscatum]
 
2008年7月9日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 6月2日、三重県亀山市の標高100mあたり、薄暗い日陰を流れる小川の土の側面一体にスギゴケ科の仲間が群生していた(a, b)。水流が多いと下部の群は水没しそうな位置まで広がっていた。乾燥すると、やや弱く巻縮し、水没させると元に戻った(c)。
 茎は長さ4〜7cm、分枝はみられない。葉の基部は卵形〜広い台形で、線状披針形に伸び、長さ5〜8mm(d)、葉の縁には鋭い鋸歯があり(e)、やや広い鞘部は全縁(f)。葉身細胞は類円形で、長さ8〜10μm(g)、葉身腹面には背の低い薄板が、50〜60列並ぶ。薄板の端細胞を上からみると、横長の楕円形から丸味をおびた四角形となっている(h)。
 葉の横断面を数ヶ所で切ってみた。中肋付近の写真を取り上げた。基部には薄板はなく、それ以外の大部分では、2〜3細胞高の薄板が見られる(i)。薄板の端細胞は、平滑で、やや厚膜。葉身細胞は、葉縁の一部では2細胞層の厚みをもつ(j)。薄板を側面から見ると、上端細胞は凸状となっている(k)。茎の横断面には、明瞭に分化した中心束があり、表皮細胞は小さく厚膜。

 朔をつけてはいないが、形と巻縮の様子から、ニワスギゴケ属 Pogonatum に間違いないだろう。現地では、コセイタカスギゴケ P. contortum だろうと思って手に取ってみた。ところが、ルーペで鞘部の縁をみると歯がない。そこで、持ちかえって調べてみることにしたものだ。
 平凡社の図鑑で、ニワスギゴケ属の種への検索表をたどると、コセイタカスギゴケとホウライスギゴケを含む分岐にたどり着く。両者の分岐は、葉鞘上半部での歯の有無、そして、朔壁の細胞でのパピラの有無となっている。朔をつけた個体がなかったが、鞘部の縁には歯はなく、過去に観察したコセイタカスギゴケと比較して、鞘部の占める領域が広い。ホウライスギゴケについての解説を読むと、観察結果とほぼ一致する。また、コセイタカスギゴケよりも「低い場所に群生」するとある。採集地も三重県であることから、ホウライスギゴケとしてよさそうだ。