7月19日に長野県の乗鞍岳山頂近く(標高2,700m)で岩の隙間に群生していたスギゴケ科の蘚類を観察した(a)。茎は長さ7〜10cm、わずかに枝分かれし、乾燥すると葉が茎に密着する(b)。葉は透明な鞘部から線状披針形に伸び、長さ10〜12mm、葉縁には顕著な歯がある(c〜e)。緑色部分の葉身細胞は厚い薄板のため形がはっきりしない(e)。鞘部の葉身細胞は長い矩形(f)。葉の腹面には一面に薄板が並び、葉縁付近にだけ薄板がない。横断面を葉の中部と鞘部で切ってみた(g)。鞘部には薄板はない。薄板は、5〜7細胞の高さがあり、頂端細胞上縁の細胞膜は厚く、表面には多数の乳頭がある(h)。薄板を横から見ると上縁の細胞が乳頭に覆われているのがよく分かる(i)。茎の横断面は、全体が丸味を帯びた三角形をなし、外皮層、髄層、中心束層と明瞭に分化している(j)。朔柄は長さ2cm前後で平滑、朔は卵状円筒形、帽は細毛からなり、蓋は円盤に細い嘴をつけたような姿をしている(k)。6〜7個の朔の朔歯を数えてみるといずれも40枚以上あるが、数は一定していない(l)。
乾燥すると葉は縮れることなく茎に密着するが、帽は密生した毛に覆われ、朔柄は平滑、朔は円筒形であることから、スギゴケ属 Polytrichum ではない。乾燥すると葉が茎に密着すること、薄板端細胞の形態などを手がかりにニワスギゴケ属 Pogonatum の検索表をたどると、ミヤマスギゴケ P. alpinum に落ちる。ここでは属名として Polytrichastrum を採用した。
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