7月に乗鞍岳山頂に続く標高2580m付近の大雪渓脇の岩陰、砂粒の多い土に出ていた苔類を観察した(a)。不規則に分枝し、葉は離在し、背片は小さな舌形、腹片はやや長い舌形、腹葉はなく、腹側からは多数の仮根がでる(b, c)。背片は腹片の1/2〜3/4ほどの長さ、腹片は長さ0.8〜1.2mm、両片とも葉先付近の縁には小さな歯がある(d〜g)。キールは腹片の1/3〜1/4長で弓形に湾曲する(e)。葉身細胞は小さく、方形〜多角形で、葉先から中央部では長さ8〜10μm(g, i)、キール付近と基部ではやや大きな矩形で、幅8〜10μm、長さ20〜30μm(h, j)、トリゴンはハッキリしないか、ほとんどない。葉身細胞の表面には小さな乳頭が複数ある(l)。茎の横断面をみると、表皮細胞はやや厚膜(k, l)。無性芽や花被などは見られなかった。
葉が深く二裂し、背片が腹片より著しく小さく、明瞭なキールをもち、腹葉はないことから、ヒシャクゴケ科 Scapaniaceae の苔類だろう。保育社の検索表をたどると、シロコオイゴケ属 Diplophyllum に落ちる。さらに種への検索表をたどると、ホソバコオイゴケ D. taxifolium に落ちる。種の解説を読むと、観察結果と概ね一致する。
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