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[標本番号:No.487   採集日:2008/08/02   採集地:栃木県、日光市]
[和名:タカネカモジゴケ   学名:Dicranum viride var. hakkodense]
 
2008年8月27日(水)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 8月2日、奥日光温泉ヶ岳の標高2135mあたりで、シッポゴケ科 Dicranaceae の蘚類が樹幹やら枝に群生していた(a, b)。茎は1.5〜2cm、乾燥時も湿時もすがたはあまり変わらない(c, d)。半数以上の葉は、先端を欠損している(e)。完全な姿の葉がとにかく少ない。1本の茎についた葉をすべて取り外して(f)、そこから先端まで揃った葉を探して調べてみた。
 葉は長さ3〜4.5mm、針状披針形で、全体が溝状に凹む(g)。中肋は葉先から長く芒状に延び、基部では葉幅の1/3弱、芒状の部分には微細な歯があり、下半部の葉縁は全縁、翼部は褐色を帯びている(h, i)。葉身細胞は、丸味を帯びた矩形で、長さ15〜30μm、やや厚壁(j)、葉上部では矩形で、長さ10〜20μm(k)、翼部では20μm前後の方形(l)。
 葉の横断面を各所で切り出してみた。上部の芒状部では葉身部は2細胞の厚みがあり、中程から下部では1細胞厚、中肋にはガイドセルとステライドがある(m, n)。茎の横断面には弱い中心束があるように見える(o)。
 
 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 朔は筒状で直立し、ほぼ相称。朔柄は長さ8〜10mm、乾燥しても捻れることなく、湿っていても真っ直ぐなままである。採集標本には、なぜか古い朔と未成熟な朔ばかりしか残っていなかった(b, p)。成熟した朔歯を観察できないので、やむなく、古い朔に残った残骸と、若い朔の未成熟な朔歯を観察することにした。
 若いが比較的成熟の進んだ朔から、帽、蓋を取り外してみた(q)。蓋には長い突起があり、朔歯はまだ真っ白で非常に短い(r)。あらためてこの朔歯を顕微鏡でみると、16枚からなり、先端部が二裂している(s〜u)。口環らしき構造がみられる(v)。
 古い朔にわずかに残っている朔歯をみた(w)。やや褐色を帯びているが、先端部から二裂したあたりは残っていない(x)。口環の有無は不明瞭でよくわからない。

 当初これはユミゴケ属 Dicranodontium の蘚類だと思っていた。しかし、朔柄は乾いても強く捻れることなく、湿らせても湾曲しない。さらに、朔歯が基部近くまで二裂することもなく、口環らしき構造がある。朔の形もこれまで見てきたユミゴケのそれと比較するとやや長い。
 あらためて、シッポゴケ科の検索表をたどると、シッポゴケ属 Dicranum に落ちる。そこで、属から種への検索表をたどってみた。無性芽はない、葉は折れやすい、茎は短く、中肋は葉基部の幅の1/3以下、などなどからタカネカモジゴケ D. viride var. hakkodense に落ちる。
 保育社図鑑のタカネカモジゴケの図とはよく似ているが、詳細についてはよくわからない。平凡社図鑑には図はない。そこで、Noguchi "Moss Flora of Japan" にあたると、詳細図があり、口環は永続性とある。観察結果は、タカネカモジゴケについての解説に概ね近い。ただ、永続性とされる口環は、古い朔にはみあたらなかった。
 タカネカモジゴケという和名だが、過去にはキシッポゴケ属のArctoa schistioides (Broth. ex Ihs.) Ihs. に対しても使われている(Iwatsuki "New Catalog of the Mosses of Japen")。平凡社図鑑によればキシッポゴケ属は日本産1種となっていて、キシッポゴケ A. fulvella だけが掲載され、Arctoa schistioides は記されていない。