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[標本番号:No.519   採集日:2008/09/27   採集地:群馬県、片品村]
[和名:フジノマンネングサ   学名:Pleuroziopsis ruthenica]
 
2008年9月29日(月)
 
(a)
(a)
(b)
(b)
(c)
(c)
(d)
(d)
(e)
(e)
(f)
(f)
(g)
(g)
(h)
(h)
(i)
(i)
(j)
(j)
(k)
(k)
(l)
(l)
 今月は、富士山(9/23)、上州武尊山(9/27)、日光白根山(9/27)といくつもの地域でフジノマンネングサの大群落に出会った。特に日光白根山で腐朽木上に群落をなしていたものには、朔をつけた個体が目立った(a〜d)。そこで、胞子体を観察しようと思い、標本を持ち帰った。
 フジノマンネングサとコウヤノマンネングサとの識別は、ほぼ確実にできるようになった。朔が湾曲しているから間違いないが、念のために枝表皮に薄膜の縦板があることを確認した(e)。今日は、配偶体の観察は棚上げして、胞子体の観察結果のみを取り上げることにした。

 8月23日に、長野県の入笠山で朔をつけた個体を初めてみたが(標本No.494の後半)、個体数が少なく、朔も老朽化したものだった。一度新鮮な状態の朔を確認したいと思っていた。
 朔柄は、茎の上部に3〜6本つき、黄褐色〜赤褐色で、長さ1.8〜2.2cm、表面は平滑(d)。朔は湾曲した円筒形で、成熟したものでは赤褐色、朔柄に対して傾いてつく(f)。蓋は円錐形で、未成熟時は緑色だが、成熟する赤褐色となる(f〜i)。帽のようなものはない。
 朔を縦断してみた(g)。軸柱のようなものはなく、薄膜楕円形の袋の中に胞子が充満している(g)。胞子袋を取り去ってみると、朔の内壁がさらけ出され、内朔歯も明瞭となった(h)。蓋を取り去ると、外朔歯がみるみる展開した(i, j)。朔歯は二重で、それぞれ16枚。外朔歯は内側に湾曲し、内朔葉は外側に軽く湾曲しているため、ちょっとみたところ、外朔歯に比して内朔歯の方が長いように見える(k)。両者を伸ばして重ねてみると長さはほぼ等しい(l)。
 

 
 
(m)
(m)
(n)
(n)
(o)
(o)
(p)
(p)
(q)
(q)
(r)
(r)
(s)
(s)
(t)
(t)
(u)
(u)
(v)
(v)
(w)
(w)
(x)
(x)
 朔歯をバラして観察してみることにした。外朔歯の側からみた画像(m, n)と、内朔歯の側からみた画像(o, p)を並べてみた。(m)(o)は水道水でカバーグラスを軽く載せた状態、(n)(p)はKOHでカバーグラスの上から軽く圧をかけたもの。外朔歯は披針形で、下部には横条があり、上部は微細な乳頭に被われる。縦中央にジグザグの結合線がはしる。内朔歯には間毛はなく、基礎膜は1/3程の高さで、先端部は微細な乳頭に被われる。
 朔を横断面で切ってみた(q)。朔壁は厚膜の表皮と2〜3層の薄膜の層からなり、その内側に薄膜の胞子袋が見える(q, r)。朔壁の外皮には気孔はなく、赤褐色で厚く肥厚した細胞が並ぶ(s)。朔柄の横断面(t)と縦断面(u)をみた。髄層に比して濃色の中心束様の構造がある。朔柄の基部を被う苞葉を取り去ると(v, w)、鞘状の構造に包まれている。この鞘部分が配偶体由来のものなのか、胞子体の足に連なるものなのか、よくわからない。鞘部の基部と口の周辺からは仮根が出ている。胞子は球形で、径15〜18μm(x)。なお、口環はない。

[修正と補足:2010.07.20]
 「朔壁の外皮には気孔はなく」と記したが、これを修正する。去る5月16日に富士山の二合目付近(alt 1600m)で、フジノマンネングサの大群落をみたが、そこに朔をつけた個体がいくつもあり、ごく一部を持ち帰っていた(標本No.944)。この朔を観察してみると、基部に気孔を見つけたので、本標本No.519を再度確認したところ、気孔を確認できた。
 

 
 
(y)
(y)
(z)
(z)
(aa)
(aa)
(ab)
(ab)
(ac)
(ac)
(ad)
(ad)
[(y)〜(aa) 標本No.944] (y) 植物体、(z) 胞子体をつけた部分、(aa) 枝の表皮と横断面、[(ab)〜(ad) 標本No.519] (ab, ac) 朔:、(ad) 気孔

 富士山から朔をつけた個体を持ち帰ったのは、外朔歯と内朔歯とを分離して撮影したいと思ったからだったが、これには失敗した。なお、標本No.944がコウヤノマンネングサでなくフジノマンネングサであることは、枝の表面に高さ1〜4細胞の多くの薄板が縦にならび(aa)、朔は湾曲(z)することから間違いない。
 気孔は朔の基部の厚くなった部分にのみあり、実体鏡では区別できず、生物顕微鏡を用いないとわからない。さらに、生物顕微鏡で観察するにあたって朔の基部表面を薄く切り出さないと、暗くて気孔の存在がわかりにくい。今回撮影したものも、朔の基部を薄く切り出すことには失敗したのでとても暗い。新鮮な朔の基部表面を削いで観察すると明瞭にわかることだろう。