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[標本番号:No.551 採集日:2008/11/02 採集地:栃木県、日光市] [和名:キダチミズゴケ 学名:Sphagnum compactum] | |||||||||||||
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今月のはじめ日光市川俣地区加仁湯の先に広がる湿原(a)で何種類かのミズゴケを観察した。今日はそのうちのひとつ、茶褐色で背丈が低く、葉が密集しているミズゴケを観察した(b)。茎は暗褐色で長さ5〜8cm、全体に固くて脆く、膨らんだ葉をつけた枝をラッシュアワーの車内のように密集してつけている(c)。このため全体に非常にボテボテした印象を受ける。枝は短く、開出枝も下垂枝も短く、開出枝は上向きのものが多い(c, d)。 茎の表皮細胞は、平滑で孔のない矩形の細胞が並び、ミズゴケ節 Sect. Sphagnum の茎表皮のような螺旋状肥厚はなく、横断面で3層からなっている(e, f)。枝の表皮細胞にはレトルト細胞はなく、表面は平滑で、上部に孔があり、横断面で一部には2層になった部分もみられる(g〜i)。 茎葉は舌形で、枝葉に比較してとても小さく、長さ0.6〜0.8mm、先端は不揃いなササクレ状となり、葉縁には舷があり基部近くで広がる(j〜m)。葉先の画像(m, k)では、葉の先端が内側に折れ曲がってしまった。茎葉の透明細胞には偽孔がみられる(n, p)。 |
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(開出枝の)枝葉は、長さ2〜2.8m、広卵状の楕円形で、ボートのように深く凹み、先端は截頭形で細かな歯のようになる(q, r)。枝葉背面の透明細胞には偽孔や縁の厚い孔が多数みられる。合焦位置を変えてみると、葉緑細胞と透明細胞の縁にそって偽孔や孔が並んで見える。枝葉の横断面で、葉緑細胞は楕円形で、透明細胞にすっかり包み込まれて、腹側にも背側にも表にでない(w, x)。そのためか、葉の背面からみても腹面からみても、透明細胞と葉緑細胞の境界が鮮明には捉えられない(s〜v)。 外見的印象はミズゴケ節のような印象を受けるが、茎や枝の表皮細胞に螺旋状肥厚がみられない。また、茎葉が枝葉に比べてとても小さく、葉の横断面で葉緑細胞は背腹両面とも表にでないこと、枝葉の先端が截頭状であることなどから、キダチミズゴケ節 Sect. Rigida の蘚となる。この節には国内では1種しか知られていないとされる。
保育社図鑑では、説明が簡略すぎて図もわずかなので詳細はよくわからないが、30p.にあるモノクロ写真のキダチミズゴケは本標本と実によく似ている。平凡社図鑑の解説も保育社図鑑と似たり寄ったりだ。滝田(1999)のキダチミズゴケをみると、観察結果と概ね一致する。
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